GLOCAL Vol.1
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13コミュニティづくりそのものである。 地球規模での環境問題が深刻化するなか、里山など身近な地域環境に対する関心も高まっている。身近な自然の価値に目を向け、それらを守り、後世に残していくことは今を生きるわれわれに課せられた責務である。豊かな自然とは多様な生物が生息する空間である。都市整備の中にもそうした考え方が取り入れられた。都市河川整備を例にとると、都市化の著しい高度経済成長期には、水害から住民の生命や財産を守る「防災性」こそが最大の使命とされた。護岸と河床の三面をコンクリートで固め、転落を防止するためのフェンスが設けられた。河川は生活空間の外側に位置することになり、その結果、家庭のごみが捨てられたり、空き缶などをポイ捨てするなどの行為が頻発した。その後、河川などの水辺空間を都市に取り込むことによって、都市のアメニティを高めようとする「親水性」の考え方が重視され、親水護岸が整備された。しかし、水辺に近づくことはできても、相変わらずコンクリートブロックによる自然とはほど遠い護岸である。自然であるからには、そこで生物が生息できることが前提となる。そうした考えから、都市河川の整備においても「近自然性」が重視されるようになり、近年では護岸を石積みにしたり、じゃかごを設置するなど、生物が生息できる環境を創出する努力がなされている。ビオトープやトンボ池の整備、ホタルの飛び交う川づくりなど、住民主体のまちづくりが全国各地で展開されている。グラウンドワーク三島は、市民、企業、行政の協働による河川を中心とする環境改善活動の代表例である。この時期は、こうした多様なまちづくりの成果やノウハウが蓄積された時代である。総合的な地域運営の時代へ 1998年に特定非営利活動促進法が制定され、NPO法人やまちづくり諸団体による多様なまちづくりを法制度の面でバックアップする体制が整えられた。そうしたなか、特定の課題に取り組んでいたまちづくり活動が徐々に守備範囲を拡大していった。その過程で他の地域や分野で活動している団体と交流機会をもち、それにより新しいパートナーシップが構築され、次のステップへと進んでいった。 今日では、多様なまちづくり活動を個々に進めるのではなく、互いに連携しながら相乗効果が発揮されるまちづくりが必要とされている。総合的視点から地域を管理・運営していくまちづくりが求められているのである。新しいものをつくるのではなく、今あるものを有効に活用し、最大限に効果を生み出すようなマネジメントである。そのための組織としては、核組織が中心となって幅広いまちづくり活動のネットワークを形成していくパターンと、既存の組織間の調整役を果たす新たな連絡協議組織を設立するパターンとがある。前者の例としては、埼玉県川越市の「蔵の会」がある。蔵の保存から、地域文化の継承、商店街の活性化、産業振興、そしてまちの総合力による都市型観光のメッカへと展開していった。また、神戸市真野地区では、公害反対運動から、住環境の改善、阪神淡路大震災の復興まちづくり、まちづくり会社「真野っこ」の設立による地域全体の運営へと発展していった。後者の例としては、世田谷の「まちづくりハウス」をはじめ、各地で結成されているまちづくりフォーラム、まちづくり工房、市民活動センターなどがある。持続可能なまちづくりの仕組みをつくる まちづくりに対する市民意識は高まっているとはいうものの、わが国は総合的な地域運営の時代に突入したばかりである。同一地域内で類似した活動を行っているグループや異なる分野での取り組みをマネジメントし、持続的な発展が可能な地域社会を形成していくことが求められている。そのためには、いくつかの課題がある。第一の課題は、市民のまちづくりに対する関心を今以上に高めることである。「まちづくりは人づくり」とよく言われるが、「人」はまちづくりを推進するための基盤である。日本人はもともと欧米人に比べると、まちづくり意識が希薄な国民である。その背景には、島国であり、城壁をもたず、多民族国家ではないといったわが国固有の特徴が影響している。外敵から身を守る必要性も低く、お上がつくった町に住まわせてもらい、困ったことが起こればお上に陳情するという体質が長い年月を経て形成されてきた。市民のまちづくり意識を高めるために必要なことは、まず地域を知り、わがまちに誇りと愛着をもつことである。それがまちづくりの原動力となる。そして、地域の価値を守り、育てる活動を継続的に行っていくことにつながっていけば、ひとまずは成功と言えよう。 さまざまな形の地域自治組織が存在するが、その多くは公的な担保や行政の位置づけが不明確であることから、まちづくりの担い手としては十分に力を発揮できない面をもつ。責任と主体性のあるまちづくり組織を結成し、その組織を支援していくことが第二の課題である。その際、事務局の存在が重要となる。いくら組織を設立しても、各団体のトップが名前を連ねているだけの組織では意味がない。実働部隊をどうつくり、どのように実行していくが問題である。組織として活動するからには、しっかりとした事務局がなければ組織は機能しない。 組織の形態としては、地縁型組織とテーマ型組織がある。地縁型組織である商店街振興組合の活動が今日低迷している背景には、後継者の有無により新たな投資に対する考え方が異なり、組合員の間で二極化が進み、合意形成を極めて困難にしているということがある。そうした場合には、いわゆる「この指とまれ方式」で、既存の組織の枠を越えて共通写真3 親水性に配慮して整備された東京都内の都市河川

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