GLOCAL Vol.1
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18国際人間学研究科 国際関係学専攻教授高 英求(Koh Youngku)1962年生まれ。京都大学大学院経済学研究科後期博士課程単位取得退学。経済学修士。国際金融論と貿易論が主たる研究領域である。最近の論文としては、「杉本栄一の短期流動性原則論」(2011年)、「A.A.バーリの人為的流 動性論」(2012年)などがある(いずれも中部大学国際関係学部論集『貿易風』)。世界経済の歴史的なあり方を、貨幣・金融と権力 (power)を柱にして読み解こうとしている。 koh@isc.chubu.ac.jp言ってみても仕方がない。前任校(九州国際大学)時代に、すぐれた中国古代思想の研究者であり、哲学者・音楽家でもある石田秀実さんという同僚に、「学際」という言葉を使って、たしなめられたことを思い出す。「学際」という言葉は、既存の学問の壁を前提にしてしまう。そうした壁そのものを乗り越える、あるいは壊していくことこそが大事だ、という意味であったのだろう。その言は正しい、という思いが強まっている。 さいわいにも、中部大学の国際関係学専攻、国際関係学部の中にある学問の壁はかなり低い。そもそも、国際関係学専攻は、国際人間学研究科の中におかれている。この「国際人間学研究科」という括りを、私は気に入っている。「ご専門は?」という質問ほどキライ(というか答えにくい)ものはない。「国際人間学」というのは、「国を越えて存在する、人間にかかわるあらゆる問題を対象とするもの」、というように私は勝手に解釈している。これならば、ひどく窮屈な最近の経済学の枠内におさまりたくない私でも、なかなか居心地よくしていられるのである。 今年の国際関係学専攻の新入生は、「ネパールのジェンダー問題」、「日本の化粧文化」、「アメリカの対外債務」をテーマに選んだ。彼らにとって、全くの異分野である、パスカル、海洋法、計量経済学などの研究方法について学んだことには、大きな意味があったようだ。もちろん、興味が拡散してしまっては、密度 国際人間学研究科の国際関係学専攻には、新入生の博士前期課程1年生向けに、「研究方法論」という講義がある。オムニバス講義で、7名の教員が概ね2回ずつ担当する。今年度、初めて私がコーディネーターになったのだが、とりまとめをしてみて、あらためてこの講義の面白さを知った。国際関係学専攻は、学問の幅が広いところに大きな特徴がある。「研究方法論」には、そういった特徴がよく表れている。 シラバスには、次のように書かれている。 「人文学・社会科学の分野における研究方法論の問題点を取り上げて、研究方法論の一般的導入とする。その上で、受講生個々の課題に基づいた研究方法を選択できるように指導する。受講生がマルチメソッド(方法論的多元性)に基づいた妥当な研究計画(research proposal)を執筆できることを具体的な目標とする。大学院一年生としては、なるべく広い視野を持って、各自の修士論文の研究テーマを定めてほしいという希望を込めて、講義は7人の教授陣によるオムニバス形式をとる。」 「なるべく広い視野を持って」、とシラバスにあるように、講義の内容は多分野にわたっている。たとえば今年度の春学期は、「国際法の研究方法」、「フランス社会の研究方法」、「国際協力の研究方法」、「経済学の研究方法」などの講義があった。「人文学と社会科学」の双方の内容を含み込んでいるところに、研究方法論の大きな特徴がある。 国際関係学というのは、ごく狭くとらえれば、社会科学の国際政治学分野になる。しかし、中部大学の国際関係学専攻(および国際関係学部)では、もっと幅広く国際関係学の領域をとらえている。すなわち、社会科学の諸々の分野はもちろん、人文学をもう一つの太い柱として位置づけているのである。 春学期を終えるにあたって、受講生一人ひとりに、「研究方法論」の内容を振りかえってもらった。興味深いことに、自分のテーマと全く異なる分野の講義が最も印象に残った、と話した人がいた。国際経済をテーマに選んだ人が、パスカルに関する講義に強く惹かれる。こうしたことは、タコ壺的な学問観からすればおかしなことかもしれないが、決してそうではない。人文学はもちろんだが、社会科学の根底にも「人間」がなくてはならない。人間がつくる社会、そして経済に関心をもつ人が、自らの時代の課題を引き受けつつ、時代を超えていくものを探求し続けたパスカルに惹かれるのは、むしろ当たり前のことだといってよいだろう。 タコ壺的な学問の弊害は、ずいぶん前から言われてきている。それにしても、私ごときがいうことではないが、その弊害が最近になって、ますます強くなっているように思えてならない。かといって、「学際的」などと広い視野を身につける国際関係学専攻の「研究方法論」

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