GLOCAL Vol.1
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2普遍と個別の関係 実は、普遍と固有、一般と特殊は地理学において長い間、論争が続けられてきたテーマである。第二次世界大戦後、普遍性・一般性を重視する科学としての地理学の樹立が強調されるようになり、それまでの個別事例的な地誌学、つまり場所や地域の固有性を記述する伝統的な地理学を遠ざける雰囲気が学界を支配した。空間的現象の中に一般的な法則性を見いだし、モデルや理論を構築して現象を説明しようとする地理学が優勢になった(Johnston, 1983)。背景には戦後経済の国際人間学研究科 歴史学・地理学専攻教授林  上(HAYASHI Noboru)1975年名古屋大学大学院文学研究科博士課程修了。『中心地理論研究』で文学博士(名古屋大学)取得。日本都市学会賞受賞。中部都市学会会長、名古屋地理学会会長、港湾経済学会中部部会会長。専門は都市経済地理学。 kfr00430@nifty.com,  http://homepage2.nifty.com/ascend/noboru.htm海と母の関係 「日本語では、海の中に母があり、フランス語では母の中に海がある」といわれる。これは、「海」という漢字の一部が「母」という字であるのに対し、フランス語の母すなわちla mèreの中にはla mer(海)があるということを意味する。海も母も普遍的な存在であり、内陸の国や人の住んでいない場所は別として、世界中どこへいってもお目にかかることができる。ある普遍的存在の中に別の普遍的存在が潜んでいるという事実には、単なる言葉遊びの域を超えて興味深い。しかしよくよく考えてみれば、海も母もともに普遍的存在とはいえ、それらは個別の海や母を集めた集合体から成り立っている。瀬戸内海、地中海、北海、北極海などなど、海水の成分や水温・水深などの異なる個別の海域を総称して、われわれは海と呼んでいる。同様に、人種、民族、国家などの違いを問わず、子供をもつ女性をなべて母と称しているのである。そこには普遍と固有、一般と特殊の関係が成り立っている。海や母の一般的性質に注目するのか、あるいは個々の海や母の特質に目を向けるのかの違いである。グローバルとローカルのはざまで 写真1 シドニーで1、2を争う有名なボンディビーチ。波はやや高めで、サーファーや海水浴客に人気がある。(2008年1月)写真2 メルボルン・セントラルは都心のショッピングセンターで、かつて鉛の玉を製造した歴史的建造物ショットタワーを取り込むために、高さ84mのガラスの尖塔までつくった。(2010年9月)

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