GLOCAL Vol.2
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2013 Vol.22013 Vol.25出所:C. Madge, ‘Survey of Community Facilities and Services in the United Kingdom’, UN Housing and Town and Country Planning Bulletin, No5. (1952), pp.31-41 in N. Tiratsoo, ‘The Reconstruction of Blitzed British Cities, 1945-55: Myths and Reality’, Contemporary British History, vol.14 no.1 (2000), p.36より転載。表1:戦後復興期の生活関連諸施設の建設計画とその実現度(1952年)国際人間学研究科 言語文化専攻准教授本内直樹(MOTOUCHI Naoki)鳥取県生まれ。英国ルートン大学大学院人文学研究科博士課程修了。Ph.D(歴史学博士)大阪市立大学大学院経済学研究科後期博士課程単位取得退学。専門:イギリス社会経済史、都市史。とくに戦後復興期のイギリス社会、イギリス労働者階級の共同体についての史的研究をすすめている。 motouchi@isc.chubu.ac.jp戦争と社会変化 1940年の秋に始まるドイツ空軍によるイギリス本土襲撃後、都市の焼け跡を目の当たりにすることになった建築家フライM.Fryは、大衆写真誌『ピクチャー・ポスト』(1941年1月号)の「イギリスを計画する」‘A Plan for Britain’と題する戦後再建特集号で、いち早く抜本的な都市計画の必要性を説いた。戦災被害はもとより荒廃住宅、過密化、住工混在、無秩序な郊外化など戦前から累積していた都市問題を一掃し、より機能的な道路網整備、均衡のとれた雇用の創出、工場と住宅地の分離、より良質な住宅の供給、病院・学校・娯楽施設の拡充、オープンスペース、アメニティの確保、現代的建築様式による視覚的快適さの提供等により、都市住民にとっての豊かなコミュニティが建設されねばならないというものであった。その意味において、戦後の都市計画とは、物的再建のみならず社はじめに 戦後復興期にあたるイギリスの1940年代は「変革の時代」とみなされている。第二次世界大戦期、チャーチル率いる戦時連立政府の下、政府高官・専門家・学識経験者・宗教指導者らによって様々な復興ヴィジョンと戦後再建問題が検討されていた。その実現手段として、未曾有の政府介入による計画化planningに期待が高まり、このことはイギリスが歩んできたレッセ・フェールからの脱却を意味した。こうした中、具体的には、住宅、産業、雇用、社会保障、医療、教育、都市計画といった広範な分野において戦後計画が続々と策定された。このような戦後再建諸政策の究極の理念とは、戦前にみられた失業、貧困、不平等といった社会問題を克服し、より公平な戦後社会を実現することにあった。こうした理念に基づく新しい理想社会は、イギリス国民にとって希望の象徴とみなされた。1945年の総選挙で圧勝したアトリー労働党政権は、より民主的で近代的な戦後社会へ向け、かつてないほど大規模な戦後改革に着手し、「揺りかごから墓場まで」で知られるW.ベヴァリッジの報告書をはじめとする福祉国家の樹立に向けて邁進した。 「新しい理想社会」は戦後どの程度実現したのだろうか。そこで本稿は、理想社会を視覚的に具現するものとして、また、新しい社会秩序を創出しうるような機能を果たす都市計画の領域からこれを考察するものである。しかし、結論を先取りすれば、実際、表1が示すように、1950年代初頭の時点においても都市計画の実現度は著しく乏しいものであり、この事実は都市計画家を大いに失望させることとなったのである。 それでは戦後復興期の都市計画はいかなる現実に直面したのだろうか。本稿では都市計画家の働きかけと国民世論の動向を中心に考察し、計画後退の要因に迫ってみたい。従来、戦後の都市計画の失敗は都市計画家に帰せられ、「理想主義者」や「独裁者」といった否定的評価を与えられてきたが、果たしてそうだったのか。また、都市計画をめぐる世論の動向の分析からアトリー労働党政権が理想とした集産的社会collective societyが実現しなかった原因を検討する。最後に、各論点の考察結果をまとめることによって計画後退の原因とは何だったのかを明らかにする1)。施   設建設計画数実現した数実現度%託 児 所13ーー保 育 園4612児童診療所24625児童遊び場2229運 動 場521427保 健 所33ーー集 会 所5048図 書 館461124戦後復興期イギリスの社会変革と都市計画—「階級なき社会」の到来?—

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