GLOCAL Vol.3
10/20

8国際人間学研究科 心理学専攻教授水野りか(MIZUNO Rika)名古屋大学大学院教育学研究科博士後期課程修了。専門は認知心理学・認知科学。『知識形成と自然言語処理における文脈の影響の認知科学的検討』で博士(工学)(名古屋大学)を、『分散効果の生起過程の解明と効果的な分散学習スケジュールの実現』で博士(教育心理学)(名古屋大学)を取得。近著は「認知心理学の新展開-言語と記憶」(共著)(ナカニシヤ出版)、近編著は「心理学を学ぼう」(ナカニシヤ出版)。http://psy.isc.chubu.ac.jp/̃mizunor/目撃者証言̶ことばに歪められた記憶̶はじめに 日本でも、市民が審理に参加する裁判員制度が2009年5月21日に施行された。法律についてほとんど何も知らない一般市民も司法に参加することになったわけである。裁判員は、証人や被告人に質問するという権限まで与えられている。目撃者証言は、被告人の処遇を判断する材料の1つとなりうるものだが、人間の記憶に基づく証言は証拠に比べて、客観性や確実性に乏しい場合がある。 認知心理学は人間の情報処理過程を明らかにするための心理学で、人間の認知、すなわち、入力情報の理解の過程を扱い、人間の記憶への諸要因の影響も検討する。目撃者証言は記憶に基づくものであり、何らかの影響下で歪められる可能性がある。そのためアメリカでは、裁判に認知心理学者が関与し、証言の信憑性を認知心理学的観点から吟味するケースも増えてきている。日本ではまだそこまでは至っていないものの、2000年11月には「法と心理学会(Japanese Society for Law and Psychology)」が設立され、人間の判断、証言、記憶に影響する様々な要因が心理学的観点から検討され始めた。ここで紹介する目撃者証言に関する知見はこれまでの研究で得られた数多くの知見のごく1部に過ぎないが、そのいくつかを紹介することで、目撃者証言シンポジウム開催趣旨 ことばは人の心を動かす。時にはポジティブに、時にはネガティブに。そのため心理学では様々な角度からことばが人間の心理に及ぼす影響が検討されてきた。その知見には心理学を専門とする方々のみならず、一般の方にも有用な、身近なものが多い。 心理学というと、一般には臨床心理学というイメージを抱かれるが、実は心理学には、心に問題を抱えた人々の治療や適応を目指す臨床心理学だけでなく、一般的な人間の心のメカニズムの理解と応用を目指す実験系や調査系の心理学があり、後者には認知心理学、学習心理学、知覚心理学、社会心理学、発達心理学など多くの領域がある。 中部大学大学院国際人間学研究科の心理学専攻は多様な領域の教授陣から構成されている。そこで、様々な領域で得られてきたことばと心理に関わる有用な知見を広く一般市民にオムニバス形式でお話しし、様々な知見を知っていただくと同時に、心理学に多様な専門領域があることをお示ししたいと考え、本シンポジウムを企画・開催した。 Glocal Vol.3では、筆者を含め、数名のパネリストの講演の概要を紹介する。シンポジウム「ことばと心理」目撃者証言̶ことばに歪められた記憶̶Figure 1. シンポジウムでの研究紹介の様子

元のページ  ../index.html#10

このブックを見る