GLOCAL Vol.3
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2013 2013 Vol.3Vol.32013 Vol.32013 2013 Vol.3Vol.32013 Vol.311国際人間学研究科 心理学専攻准教授高比良美詠子(TAKAHIRA Mieko)1999年お茶の水女子大学大学院人間文化研究科博士課程単位取得退学。博士(人文科学)(お茶の水女子大学)。専門は社会心理学。著書に『ネガティブ思考と抑うつ』(学文社、単著)、『サイエンス・コミュニケーション』(日本評論社、共著)、『インターネット心理学のフロンティア』(誠信書房、共著)など。takahira@sti.chubu.ac.jp類を取り上げ説明を行う。(1)自動判断ルート 騙しに利用される心の法則の1つ目は「自動判断ルート」である。人が出来事の意味を判断するときの方法は2種類のルートに大別される。一方は熟慮判断ルートであり、こちらでは、できるだけ予断を排した状態で、遭遇した出来事や与えられた情報の意味が注意深く自律的に処理される。もう一方は自動判断ルートであり、こちらでは、これまでの学習や経験によって頭の中に蓄積された知識のデータベースを積極的に利用しながら、遭遇した出来事の意味が即時に効率よく処理される。人がリアルタイムで処理できる情報量には限りがあるため、普段の生活では、より負担が少ない自動判断ルートが利用されやすい。しかし、自動判断ルートは、効率性は高いものの柔軟性に欠けることから、問題が生じたときは熟慮判断ルートに切り替えることで行動の調整が計られる。 これらの2種類のルートを適宜切り替えて用いることで私たちは状況にうまく適応しながら生きているが、犯人は、この普遍的な心の法則を利用することで、自分たちに都合がよい方向に被害者の思考を誘導する。たとえばオレオレ詐欺では、時間的切迫感や、心理的動揺を高めるシナリオを用意して被害者をあわてさせ(「交通事故を起こしてしまった」「早く決断しないと間に合わない」など)、熟慮判断ルートを利用できない状態にする。こ心理学が目指していること 心理学は、科学的な方法を用いて人間の「心の法則」を明らかにすることを目指す人間科学である。そのため科学に分類される他の研究分野と同じく、体系的で普遍的な法則を発見することが大きな目標になっている。また同時に、発見した「心の法則」を利用して、現実場面で生じるさまざまな問題の解決を目指すという目標も重要視されている。 そこで本稿では、10年ほど前から日本で社会問題化している「振り込め詐欺」に焦点を当て、私たちが詐欺に騙されてしまう背景にどのような「心の法則(しくみ)」が関係しているのかについて考察する。さまざまな詐欺の手口と被害状況 警察庁では、“被害者に電話をかけるなどして対面することなく欺もうし、指定した預貯金口座への振り込みその他の方法により、不特定多数の者から現金等をだまし取る犯罪”を特殊詐欺と総称している。この特殊詐欺の代表例が「振り込め詐欺」であり、オレオレ詐欺、架空請求詐欺、融資保証金詐欺、還付金等詐欺の4種類がここに含まれる(表1)。なお最近では、現金を振り込ませる手口に加え、犯人が現金やキャッシュカードを直接受け取りに来る手交型の手口も増えてきたことから、2013年より「母さん助けて詐欺」という名称が新たに採用され、従来の「振り込め詐欺」と併用されている。 これらの振り込み詐欺の詳しい手口はマスコミ等でもたびたび報道されており、警察庁のウェブサイトでは、振り込め詐欺の最新情報が随時閲覧可能である。このような地道で幅広い広報活動が功を奏し、振り込め詐欺の認知件数(被害届が出された件数)は、2009年には最盛期である2004年の4分の1程度にまで減少した。しかし、振り込み詐欺の中で最も認知件数が多いオレオレ詐欺は、いまだに年間3000~5000件の被害が報告されている。また、近年では、振り込め詐欺以外の特殊詐欺である、金融商品等取り引き名目の詐欺、ギャンブル必勝情報提供名目の詐欺、異性との交際あっせん名目の詐欺なども急増している。心の法則からみた騙されるしくみ それでは、なぜこのような詐欺が横行するのだろうか。社会心理学の立場からみると、騙しの手口は人が普遍的に持つ心の法則を利用したものが多く、犯人が使う言葉は私たちの心の弱みを巧みに突いている。そのため、誰もが被害者になる可能性を持っている。そこで本稿では、振り込め詐欺(特に、オレオレ詐欺)に騙される下地となる普遍的な心の法則として、(1)自動判断ルート、(2)社会的動物、(3)自己中心性バイアスの3種だますことば、だまされる心̶社会心理学からみた「振り込め詐欺」のしくみ̶

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