GLOCAL Vol.3
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2013 2013 Vol.3Vol.32013 Vol.32013 2013 Vol.3Vol.32013 Vol.315国際人間学研究科心理学専攻 准教授吉住隆弘(YOSHIZUMI Takahiro)福岡県北九州市出身。2008年名古屋大学大学院教育発達科学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。研究テーマは、児童・青年期の心の問題、臨床心理学的地域援助、貧困者・家庭への支援。zumie@isc.chubu.ac.jpます」と一定の関心は持っていただいたものの積極的な声が聞かれることはなかった。唯一賛同してくれたのが高蔵寺で活動するNPO団体であり、彼らの「地域支援として必要な活動です。いっしょにやりましょう」との声が大きな励みとなり、その後の後押しとなった。かくして2011年12月より、中部大学生を主体とした学習支援「学習教室きみいろ」は春日井市高蔵寺にてスタートした。 「きみいろ」という名前は、「子どもたちそれぞれの個性が輝く場所になって欲しい」と、活動の立ち上げに携わった学生スタッフの一人が名づけたものである。利用者や見学に来られた方から、「きみいろさん」と親しみを込めて呼ばれることも多い。また活動時に掲げる看板も学生によるハンドメイドであり(写真1)、名前とともに学生の若いセンスが活かされた作品になっていると思う。 きみいろの主たる利用者は、家庭の経済的問題のために塾等の補助学習を受けることができていない中学生である。個人情報保護の問題もあり、支援対象者に直接声を届けることが難しいため、年に数回チラシ配りを学生スタッフが行うことで利用者の獲得に努めている(写真2)。自分達の実際の足で利用者を募ることで、申し込みがあったときの喜びは格別なものとなり、また地域が置かれている状況をミクロな視点で考える機会ともなるため、現在の方法がよいと考えている。ただ最近は、春日井市の広報紙を見たという方や、問題の背景 2008年秋のリーマンショック以降、生活保護を申請する世帯数が急増し、200万人を既に超えたことが大きく新聞等で話題となった。このような不況はその世帯に含まれる子どもにも大きな影響を与えていると考えられ、相対的貧困率(所得中央値の50%以下の所得しか得ていない人の割合。直近の2009年は15.7%) は、わが国の6.3人に一人の子どもが相対的に貧困であることを示している。 このような不況は、その世帯に含まれる子どもにも大きな影響を与えている。特に顕著なのが教育現場であり、進路の問題においては、被保護世帯の高校進学率は一般世帯と大きな開きがある。低学歴であることは、将来的に不安定雇用につながる可能性が高く、その結果本人も経済的問題を抱えてしまうといった、貧困の連鎖の要因となりうる。実際、大阪府堺市の調査によれば、生活保護を受給している世帯主が子ども期に育った家族も生活保護受給していたとする割合が25.1%であり、また72.6%が中学卒または高校中退であった(道中、2009)。これらのことは、貧困の再生産の防止のためには、教育に対する支援が重要な要素のひとつとなることを示している。 この不利益の連鎖の主要因の一つに教育機会の制限があると位置づけ、予防的な観点からアプローチするのが、経済的困難世帯を対象とした学習支援である。1987年から続く東京都江戸川区の「江戸川中3勉強会」がその始まりとされており、東京都江戸川区のケースワーカーが、各家庭を訪問しながら個人的に子どもの学習面の指導を行ったことから生まれた活動である。その後、2005年に厚生労働省が実施を定めた自立支援プログラム策定実施推進事業、2009年からの子どもの健全育成支援事業、そして2011年からの生活保護受給者の社会的な居場所づくり支援事業と、制度面での拡充が契機となり、学習支援を行う自治体の数は年度を追うごとに増加している。中部大学生による学習支援̶「学習教室きみいろ」̶ 2011年当時、既に全国に広がりつつあった学習支援であったが、愛知県内で学習支援を行っている自治体は無かった。まずは近隣自治体の役所に対し協働運営について持ちかけてみたが、「いい活動ですね」や「応援し経済的困難世帯の子どもを対象とした学習支援への取り組み写真1 学生手作りによる看板

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