GLOCAL Vol.3
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16結果となっている。学習支援は、高校進学率の上昇において一定の役割を果たしていることが分かる。 一方、発達的サポートの視点から、学習支援を評価することも必要と考える。生活保護世帯の子どもは、学校で周辺的な位置に置かれることで家庭がよりどころとなってしまい、その結果、自身の希望よりも、家庭に準拠した進路選択を行ってしまう傾向があるという(林、2012)。一般に、子どもはその発達プロセスにおいて、他者との関係性の中で自己を意味づけ、自分自身の興味関心や将来イメージを広げていく。学習支援には、大学生等、生徒と比較的年齢の近い支援者が多く参加するため、生徒は、支援者との関りの中で自身の将来像をイメージし易く、進路についても考えるきっかけとなり得るのではないだろうか。また家庭の経済的問題を抱える世帯の子どもは、複合的剥奪による、重層的な傷つきを受け続けていることが予想される(岩川、2009)。努力さえも社会階層の影響を受けるとする「希望の格差」(山田、2004) が広まってきている昨今、生徒達の内面の傷つきに配慮しつつ、動機付けや自尊心にフォーカスした、心理的なサポートを行うことが重要であり、その視点からの評価も必要と考えている。 学習支援が展開されてきた背景や経緯、そして個人的な経験から、学習支援は、学力形成と居場所の両機能を果たす必要があると考える。不登校傾向のある生徒が学習支援に休まずに来たり、提出物を出さずに内申点の低い生徒が「ここでは宿題をやって今度は提出する」と誇らしげに話したりする場面に遭遇すると、特にその思いを強くする。学力に偏った視点は、学習支援が持つ潜在的な可能性を喪失させてしまうと考えている。引用文献林 明子(2012) 生活保護世帯の子どもの生活と進路選択―ライフストーリーに着目して 教育學研究, 79, 13-24.岩川直樹(2009) 子どもの貧困を軸にした社会の編み直し 子どもの貧困白書編集委員会偏 子どもの貧困白書 明石書店道中 隆(2009) 生活保護と日本型ワーキングプア―貧困の固定化と世代間継承 ミネルヴァ書房山田昌弘(2004) 希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く 筑摩書房市役所から紹介されたという方も出てきており、活動を始めて二年弱、少しずつ地域に浸透しつつあることを感じている。 現在のきみいろの利用登録数は、生活保護世帯、母子世帯、非正規労働者世帯、在日外国人世帯等の8世帯である。一回の参加者平均数は3.8人であるが、2013年度だけみると4.7人と増加傾向にある。学習内容は、生徒の主体性を育むという意味で、生徒自らが勉強する内容を決めるという方針をとっている。宿題やテストの直しが多いようであるが、中にはボーっとしたまま過ごす生徒もいるため、そういう時は、学生スタッフが雑談をしたり、クイズ形式で課題を出したりするなどして少しでも勉強に向かうような働きかけを行っている(写真3)。また時にお楽しみ会と称して、学生スタッフのアイデアによりイベントをやったり、年度の最後にはお別れ会を開催したりしている。以下に実際に参加している生徒を紹介する。Aくんは、母子世帯のお子さんで、一般の塾は合わないという理由できみいろに参加した。壊れた筆記用具を使い、服装も薄汚れているのが印象的である。性格は明るいが、学習への動機付けは低く、うつ伏せで過ごすことも多いため、スタッフがクイズ形式でやる気を出すよう働きかけている。母親は、いつもはルーズな子どもが、忘れずに通っていることに驚くが、その一方で、学習や日常生活をめぐって親子げんかが絶えないと言う。 学習をサポートする学生はボランティアによる参加である。当初は私のゼミに配属されてくる学生が主であったが、最近は他のゼミやゼミ配属前の学生からも希望が出されるようになった。尋ねてみると「臨床心理士を目指しているが、授業で実際に人と関るわけではないので物足りないと思っていた」との声が多く聞かれる。臨床心理士については、本学には臨床心理士を養成する専門コースを設置した大学院がないこともあり、希望する学生はそれほど多いわけではない。ただ年に2~3名は臨床心理士を目指して他大学院に進学しており、そのような学生がきみいろに参加することは、大学院に進む前の実践教育の場となると考えている。また実際に活動に参加している学生スタッフからは、「一つの社会問題に向き合うことで、他の社会問題も視野に入りやすくなり、社会問題全体を意識するようになった」や「子どもたちとの関わりの中で自分も成長できる。様々な視点から考え、一人一人を理解し受け入れることができるようになった」と、社会問題に関心を持つ契機や、精神的な成長のきっかけともなっているようである。なお貧困問題への社会的な関心と重なり、新聞等のメディア等の取材を受けたり、市議会議員や京都や横浜で同類の活動をしている人の視察を受けたりする機会が増えている。また子どもの貧困問題を扱ったシンポジウムに報告者として声をかけて頂くことも増え、学生スタッフの研鑽の場や学生間の交流の場と位置づけて、学生スタッフに報告者を任せることにしている。学習支援をどう評価していくか? 活動を継続していくためには、学習支援をどのように評価し、その成果についてアピールしていくことが必要である。まず注目されるのが高校進学率である。公式な文書として報告されているものは少ないが、埼玉県と高知県の取り組みについては、双方とも生活保護世帯全体の進学率89.5%を大きく超える写真2 チラシ配りの様子写真3 学習の様子

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