GLOCAL Vol.3
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2現地の人が持っていない技術や実務能力をしっかりと持って現地に貢献することが必要である。企業による海外への直接投資が成功するためには、投資する企業が現地にはない技術とか経営ノウハウとかの現地企業に対する優位性を持っていることが必要条件である。日本から派遣される人はこのような優位性を体現していなければならない。 また、企業が多国間に分散した子会社を一体として機能させるために、主に本国で形成された企業文化を海外子会社に浸透させて、共通の行動規範とする必要がある。トヨタウェイ、コマツウェイなどの形成努力に見られるように、日本企業もこのことに積極的に取り組み始めている。日本から派遣される人材は、このような企業文化をしっかりと身に着けていることが望ましい。 実際に、日系中堅企業の海外で活躍している人材も、本社で経験を積んで、技術・実務能力、企業文化をしっかり身に着けた日本国籍人か、現地国籍人である。これらの資質は主に企業に入ってから形成されるが、大学教育においても、将来、企業に入って技術・実務能力を磨くための準備となるような教育をすべきだと言える。単に語学とか外国事情関する知識以前に、基礎的な学力を身に着ける必要があると言えよう。国際人間学研究科 国際関係学専攻舛山誠一(MASUYAMA Seiichi)1973年カリフォルニア大学バークレー校ビジネススクール卒業。MBA。国際経営学の枠組で、日系中堅企業の中国・アジアビジネスの研究を進めている。国際経営とグローバル人材 企業を中心に「グローバル人材」へのニーズが近年とみに強まっており、この面での大学の役割についての期待・圧力も高まっている。国際経営の観点からこの問題について考えてみたい。 グローバル人材へのニーズがこのように急激に高まってきた背景には、グローバル化の進展に加えて、国内市場の閉塞感と対照的なアジアを中心とする新興国経済の急速な発展がある。このため、日本企業のグローバル化においてアジア諸国への展開が圧倒的に大きなウェイトを占めていることと、これまであまり国際化が行われてこなかった中堅・中小企業にもそれが及んでいるのが、大きな特徴である。 直接投資対象国として、特に、中国、ASEAN諸国に加えて、日本からは少し遠いが、中国と並ぶ大国であるインドも高い成長を続けており、アジアの魅力が高い。日本企業は、日本との経済の一体化が進むアジア諸国の需要を「内需」ととらえて、海外進出を加速させている。経済産業省による調査では、日本企業の2010年度の海外現地法人の国・地域別売上高では、中国が22%、その他アジアが30%と、アジア地域が過半を占めるまでになっている。 大企業の海外進出が進展することによって、中堅・中小企業の国内需要が減少し、売り上げを確保するために自ら海外進出することを迫られている。同時に、このような過程で系列関係が崩れて、より自律的な経営を迫られており、中堅・中小企業にとってチャンスでもある。これにともない、国内志向の強かった中堅中小企業においても、アジアを中心に海外に駐在したり、国内において海外拠点との調整や輸出、調達を行ったりする、国際的な業務を行う人材が必要になっている。また、観光業や小売業、飲食業などで海外からの観光客に対応する必要も高まっている。職場で外国人の同僚と一緒に働く機会も増える。 このような内外における国際化に企業において対応できる人材、いわゆるグローバル人材には、国内事業に必要な資質に加えてプラスアルファの資質が求められる。国際経営学の視点や、中部圏の中堅・中小企業の中国上海地域におけるインタビュー調査からの知見を基に、筆者は、グローバル人材には、以下のような5つの資質が大切だと考える。即ち、①現地から必要とされるものを持っている人材、②現地への適応能力、③外国語能力、④論理的思考と行動ができる、⑤日本人としてのアイデンティティを確立し、日本人の強みを持っている人材、である。これらの点に関して、以下により詳しく見てみたい。現地から必要とされるものを持っている人材 国際的な仕事をこなすためには、先ずは、グローバル人材と大学、大学院教育~中堅中小企業の国際経営の観点から~

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