GLOCAL Vol.3
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2013 2013 Vol.3Vol.32013 Vol.32013 2013 Vol.3Vol.32013 Vol.33において必要なだけでなく、異なった文化を持った人材からなる多国籍企業内におけるコミュニケーションにおいて、論理的説明の重要性が高い。同質的な環境の日本においては、言葉による説明をあまりしなくても人は動くが、異文化環境においては言葉による論理的説明なしには人は動かない。 しかし、日本企業は、この面が弱い。同質的な日本国民を従業員として育ってきた日本企業の経営においては、この論理的思考と行動が外国企業に比べて弱く、改善の必要がある。 大学教育は、本来このような論理的な思考を教えるものであると言える。大学院教育は、このレベルを格段に高めるべきものであろう。欧米企業においては、文科系においても大学院卒の人材を多く採用し活用しているが、経験重視の日本企業にはむしろ忌避されてきた。グローバル人材の育成のためには、企業・大学が協力して、論理的思考・行動能力の高い人材を育成していく必要がある。日本人としてのアイデンティティの確立と日本人の強みの活用 グローバル人材には、以上のような点に加えて、その育ってきた社会とのアイデンティティをしっかり持ち、その国民の持つ強みを生かせることが必要である。グローバル人材はグローカル人材であるとも言えよう。 これがなければ、国際社会において十分に信用されない。また、国際的な仕事をしてきた日本人は、国際性があまりないように見える日本人の国民性が、意外に役に立つことがあることも指摘している。国際的競争社会で有効な積極性や自己主張は弱い反面、思いやりと気配り、チームワーク、勤勉性、ビジュアルコミュニケーション能力などの面では優位性があるとのことである。自らの優位性を自覚して働くことが求められる。 大学・大学院教育に関しては、フィールドワーク、留学などの外国経験が、逆に日本人としての自覚を高めることにつながると言えよう。現地に適応できる能力 国際経営とは、技術とかマーケティング・経営ノウハウとか、企業自らがコントロールできる能力を、現地の政治・経済・文化という、自らがコントロールできない外部環境に対して適応することによって発揮する仕組みとプロセスであると言える。国際経営を成功させるためには、現地市場に受け容れられやすい商品を開発し、現地市場に受け容れられやすい方法で販売し、現地の文化、法律に合ったやり方で人を育て、使わなければならない。 現地の環境に適応するためには、現地の環境をしっかりと学習し、分析することが重要である。かつて米国の代表的なグローバル企業である、グーグルの日本代表を務めた村上憲郎氏は、グローバルに仕事を動かす4つの知識として、①キリスト教の基礎の理解、②仏教の基礎の理解、③西洋哲学の基礎の理解、④アメリカ史の基礎の理解、を挙げている。①、③、④は、これまで世界を支配し、グローバル企業を輩出してきた欧米の企業、人、市場を理解するうえで必要な知識である。重要性を増す中国で働くには、儒教・法家思想、兵法、中国史などの知識が必要となろう。これに対して②は、そこで働く日本人のアイデンティティ確立のための知識として挙げられている。特に、深層となる文化・歴史の学習を強調していることが注目される。 大学・大学院教育に関しては、国際的な政治経済社会文化についての学習が有効であると考えられる。また、あらゆる側面で多様性を尊重する教育が大事である。このような関心を深め、偏見のない姿勢を形成していくうえで、若い時代に海外経験を含めて多様な経験を積むことが役に立つと考えられる。中部大学の国際関係学部、国際人間学研究科は、このような国際的な知識を教育するとともに、海外フィールドワーク、留学によって、海外体験を促進するような仕組みを持っている。外国語能力 国際経営において、先ず、国際標準語としての英語の重要性が高い。本社と現地子会社間、あるいは第三国人を交えたコミュニケーションには、国際標準語としての英語を使うのが効率的である。日本企業の国際経営の大きな問題点として、人材の現地化・第三国人化が遅れて、日本人が中心となり、日本語を社内公用語として国際経営を行っていることにあると言われる。これは、欧米企業が人材の現地化・第三国人化を進めて、英語を社内公用言語として経営しているのと対照的であるとされる。楽天などによる英語の社内公用語化に見られるように、この面でも日本企業にもようやく大きな動きが見られる。大学・大学院教育に対しても、英語教育を充実させるようにとの企業からのプレッシャーが高まっている。中部大学国際関係学部においても英語教育に注力してきたが、さらなる充実が必要である。 加えて、現地市場に深く入って販売したり、現地の文化の機微に触れたりしながらの人事管理を行うには、やはりローカル言語によるコミュニケーションが必要になる。現地の政治・経済・文化を理解するうえでもローカル言語能力が重要である。中部大学国際関係学部においては、中国語中国関係学科において密度の濃い中国語教育を行うほか、他の幾つかの地域言語の授業を行っている。論理的思考と行動 宅配便市場を創造して尊敬を集めているヤマト運輸の故小倉昌男氏は、経営者に一番必要な条件は論理的思考だと言った(『小倉昌男の経営学』)。国際経営においてはこれが一段と重要である。経験に基づく知識の集積が少ない国際環境における経営戦略の立案・実施森松工業(株)上海拠点にて

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