GLOCAL Vol.3
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2013 2013 Vol.3Vol.32013 Vol.35ウンの高齢化問題を取り上げることになった。新4年生のゼミの授業には毎回、いちょうの会の会長とメンバーの有志の方に出席をお願いし、どのような視点で取り上げたらよいか、ゼミ生と率直に意見交換する形で進めた。これが高齢者と中部大生の実質的な連携の始まりだった。 まず行ったのは、「いちょうの会」が活動している高森台地区の住民103人に対するアンケート調査で、5月の大型連休を利用して実施した。回答してくれた方は82人で、その8割は70代・80代の高齢者で、独り暮らしは12人、約7割が高齢世帯だった。 驚いたのは情報機器についての調査結果だった。まず携帯電話は82人中62人が所有、パソコンも回答者の約71%が所有、その内何と85%がインターネットを使うなど、多くの高齢者が最新の情報機器を苦手とせず、利用していたのである。 この調査からは、高齢世帯だけで暮らしている人が多いものの、さびしいと感じているのは全体の約1割に過ぎず、携帯電話やパソコンを使って、それなりに生活を楽しんでいることが分かった。この地区は高学歴の高齢者が多いため、情報社会から取り残されたくないという気持ちが強いのではないかと推測される。 そこで、ゼミの授業の研究テーマとして取り上げることにしたのは、「高齢者が思い思いに楽しく暮らしている姿を映像化すること」、「パソコンを使った電子井戸端会議の実証実験をすること」「学生が高齢者に分かりやすくスマートフォンの使い方を教えるビデオを制作する」の3つであった。 ただビデオ作品を制作するといっても大学外の方々を巻き込むもののため、いい加減なものは作れない。しかし私は中部大生なら地域の高齢者の期待にきちんと応えられるという、ある種の確信があった。それは何か。NHKを定年退職後、2005年から中部大学で教えるようになって最初に取り組んだのは、全国規模の映像コンクールに入賞することにより学生に自信をつけさせることだった。これは2006年度から2011年度にかけて6年連続入賞を果たすことでクリア、次に取り組んだのが外部機関からの受託研究で成果を上げることであった。学内の授業は60点以上で合格だが、外部との連携ではそうはいかない。最低でも100点以上が求められるからである。これに対しても学生は、三重県松坂市教育委員会や名古屋市上下水道局、NEXCO中日本から研究委託されたプロモーションビデオの制作を次々にこなし、外部からの期待に応えた。学生たちの頑張りをみて、今回の取り組みにも学生たちは必ずや期待に応えてくれると思ったのである。 こうして中部大生が高齢者と連携して制作したビデオ作品は、ニュータウン内の高齢者を大いに元気づけた。その一部はYOUTUBEでも紹介されている。高齢者との連携が、NPO法人や地域への連携に発展 翌年の2012年度、4年のゼミで取り組んだ研究課題は、ニュータウンを含む春日井市全体の活性化策を提案するビデオ作品の制作であった。 同時に3年生と4年生のゼミ生が中心となり、NPO法人まちのエキスパネットが主催するニュータウンの夏まつり「高蔵寺きてみん祭」と秋のイベント「高蔵寺フォークジャンボリー」の活動を支援することにしたのである。 これには、3年と4年生のゼミ生が中心となって大学のチャレンジサイトとして取り組んだ。20人のゼミ生を含め、総勢中部大生約30人が、会場や舞台の設営から司会・進行のアシスタント、撮影記録、後片付けなどの手助けをしたのである。またイベントの手助けだけではなく、「元気いっぱい!」と書かれた自前のテントも出展、制作した映像作品を上映するとともに、ゼミ生が試作したサボテン料理(餃子・杏仁豆腐のたれ・サボテンゼリー)を試食してもらった。 特に夏祭りでは、猛暑の中で、「助っ人隊」と書かれたお揃いのTシャツを着た中部大生がきびきびと動き回る姿は、お祭りに元気を与え、清々しい印象を与えた。またゼミ生が試作したサボテン料理はわずか1時間ですべてさばけてしまうほどの人気だった。 2013年度からは、春日井市と小牧市の約7万世帯にTV番組を提供している中部ケーブルネットワーク(CCNet KCTV局)に15分間の「中部大学アワー」の枠が設けられ、毎日朝昼夕の3回、中部大生が制作した番組が放送されている。その第一回の4月と第二回の5月の放送は、中部大生と高齢者の交流から生まれた番組だった。ちなみに4月は、ニュータウンに住む母娘が、北京オリンピックのシンクロ選手になるまでを描いたドキュメンタリー作品、5月は、国鉄中央線時代のトンネル・愛岐トンネル群保存再生活動を取り上げたものである。 こうして高齢者と学生との連携の成果は、ケーブルテレビを通して、隣の小牧市へも広がりを見せつつある。足慣らしの時代が終わり、いよいよこれからが本番! こうした活動を踏まえて私がシンポジウムで強調したのは、「中部大生と高齢者が本気になって向き合えば、お互いの心が通じ、それが具体的な動きにつながり、道が拓ける、もう議論するときは終わった、課題は分かった、課題を乗り越えるために、とにかく実行するしかない」ということであった。 そしてシンポジウムの後、林上教授から「ニュータウンという名前からはもうそろそろ卒業し、グリーンシティかグリーンタウンの名称で、医療、介護、教育、文化、居住などに関する研究開発拠点、モデル実践拠点、創造拠点としてギアチェンジをしていくべきだ。中部大学はその一翼を担うチャンスがある。守る、維持するから創る方向への転換である。」というメッセージをいただいた。 まさにその通りだと思う。あてになる人材の育成を掲げる中部大学、地域社会からの熱い期待にどう応えるのか。 まさに今、その対応の真価が問われているのである。

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