GLOCAL Vol.4
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2014 2014 Vol.4Vol.42014 Vol.4大学開学50周年記念号大学開学50周年記念号大学開学50周年記念号2014 2014 Vol.4Vol.42014 Vol.4大学開学50周年記念号大学開学50周年記念号大学開学50周年記念号11ヤーッコラ伊勢井敏子英語圏言語文化コース教授 ■学際的な音声学 コミュニケーションと言う言葉は多くの場合実際には音声コミュニケーションを指すことが多い。これは、人間生活において欠かすことができない重要な活動である。音声を扱うとなればすべて音声学の研究分野の対象となりうる。 音声学は、「人間の音声を科学的に研究する」学問分野である。言語学の下位分類の学問分野とされることが多いが、物理的、生理的性質を持つことから他の学問分野と結びつく学際的な分野である。■音声学の様々な分野 音声学は調音音声学、音響音声学、聴覚音声学と大きく3つに分類される。 調音音声学ではどのように声が出るのかを説明する発声のメカニズムや構音などを扱う。一般に声の生成とも呼ばれる。音声学はもともと言語教育の中で発音の重要性から科学的手法も交え調音音声学として科学的学問分野として19世紀に確立していった。その立役者の一人がHenry Sweet (1845‒1912) でMy Fair Ladyのヒギンズ教授のモデルとも言われる音声学者である。今日の国際音声記号(国際音声字母、IPA)の基を創ったDaniel Jones (1881-1967) も一説にはヒギンズ教授のモデルと言われたことがある。IPAは世界中の音声学者が集まる国際音声協会により時折、改訂が行われている。多くの辞書にはこのIPAを参照した音声記号が使われている。 なお、音声記号はたとえばプログラミングのために使われる符号ではない。調音運動に基づいた構音という物理的に証明できる実体を伴った表象としてのシンボルである。 音声環境に応じて様々に変化しうる、また、科学的に証明できる異音の集合体が音素であるが、これは抽象的なものであって、音韻論の範疇になる。音素を使うからと言って直ちに音声学分野とはならないことに注意されたい。 授業の中で発音を教える分野は教育音声学とも言われる。日本では、英語音声学という授業がだいぶ前まで必修であった。語学の教員になるには、音声の基礎を知っているべきであるから、復活させて欲しいものである。 調音音声学では、生理生体反応的な要素が強いので生理音声学もこれに入る。 他者の話す音声(発話)を人間が聞いているのかを研究するのが聴覚音声学である。一般に声の知覚とも呼ばれる。同定実験や弁別実験がよく行われる。また、心理的に快・不快、あるいは感情的にどのように感じるかを扱う分野を心理音声学と言う。 音声を物理的に分析するのが音響音声学分野である。 音声学では音響実験や生理実験による証拠を示さずに研究における主張はできない。■音声学は研究の宝庫 My Fair Ladyの中でイライザの話す下町言葉(東ロンドンの市場のあたり)をコックニー方言と言う。地域方言である。物語の中で、ヒギンズ教授による発音矯正の場面がいくつかある。この作品は音声学と文学の結びつきを示す好例であると同時に、社会音声、応用音声、音響学的側面も含んでいる。 社会的な要素、例えば、男女、年齢、職業、身分等を考えた声の研究は社会音声学の範疇となる。 音声学では、一般音声学とある一つの言語の音声だけを扱う個別音声学がある。一般音声学ではすべての言語を対象とする。複数の言語音声を比較するのが対照音声学である。 世界には、音声面で未だ研究が不足する言語がある。また、ある特定の言語に限っても明らかにすべき音声現象もある。個別言語の研究から、あるいは、複数言語の比較によって普遍的な音声原理が導かれる可能性もある。現在、音声学を専攻する学生も研究者も世界的に少ないが、音声の研究は幅広く解明されるべき課題だけでも非常に多い。和田伸一郎ジャーナリズムコース准教授■「メディア論」 メディア論は、1960年代にマーシャル・マクルーハンによって創始されたと一般に言われている。マクルーハンは、1950年代にテレビが急速に普及する中、テレビ文化の洗礼を受けた学生と授業で出くわし、そこでショックを受けることとなった。英米中世文学の専門家だったマクルーハンは、それ以後、その蓄積をもとに、メディアを理論化することに専念した。 その後、先進諸国では高度経済成長期を迎え、豊かな社会でメディア文化も豊穣化していく。しかし、成長期、好景気の時代は戦後50年近く続いた後、終わった。この経済的な成長期があったにもかかわらず、いずれもアナログ技術に基づいた、電話はおよそ100年間、テレビは50年間それぞれ技術的にほとんど進歩しなかった(デジタル技術は、世界的な技術的優位に立つために、アメリカ軍に長い間占有されたものだったのであり、これが民生化されるには冷戦終結を待たねばならなかった)。こうした背景ゆえに、メディア論は変わらない同じ対象(メディア)を研究していればよい分野となっていた。■理論の停滞 一方、人文社会学系の学問分野について言えば、フランスで、経済的豊かさを背景に、優れた思想家、理論家が多数登場した(ポスト構造主義など)。その後、彼らの仕事はアメリカや日本などで輸入されることになった。 アメリカ、日本に輸入されて行われた諸研究をいまから振り返るなら、この時期(とくに日本のバブル景気に支えられた1980年代以降しばらくの間)の学問は、そうした理論を「現実」の分析に応用するというスタイルをとるものが多く、自力で理論そのものを更新するということはあまり行われてこなかったように思われる。なお悪いのは、理論で分析できる都合の良い「現実」だけをもってきて、それを理論で分析するというものが少なくな言語文化

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