GLOCAL Vol.4
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2014 2014 Vol.4Vol.42014 Vol.4大学開学50周年記念号大学開学50周年記念号大学開学50周年記念号19シニア産業カウンセラーに認定され、現在は、三重県労働福祉協会「若者就業サポートステーション・みえ」の総括コーディネーターとして、若者の就労支援に当たる傍ら、中学校や高校に出向いてキャリア教育を行うなど修士研究の成果を活かして活躍中である。ここ数年、筆者が学部で担当している「臨床心理学F」の授業の中でも、特別講師として就労支援の現場から見えてくる現代の若者気質、支援のポイントについて話をしてもらっている。特に、就活に取り組み始めたばかりの3年生の受講生には、とても興味深い話で、好評を博している。臨床心理学的地域援助 -現在- 現在、心理学専攻の臨床心理学を専門とする教員は吉住隆弘准教授と筆者の2名である。ここでは、筆者が行っている臨床心理学的地域援助-公立中学校の適応指導教室で行っている学習支援活動-について紹介する。臨床心理学的地域援助とは、他領域の専門機関と連携しながら、個人だけでなく地域、学校、職場などの環境に働きかけ、情報の整理や提供、環境の調整などを行う、臨床心理士の専門性を活かした重要な専門的行為である。GLOCAL Vol.3で吉住准教授が、「学習教室きみいろ」を立ち上げ、経済的困難世帯の子どもを対象とした中部大学生による学習支援について紹介されていたが(吉住、2013)、吉住准教授のこうした取り組みも臨床心理学的地域援助と言える。適応指導教室に在籍する 不登校生徒に対する学習支援活動 児童生徒が、何らかの心理的、身体的、あるいは社会的要因により、登校できない状態、いわゆる不登校問題が取り沙汰されるようになってから久しい。文部科学省の調査によるはじめに 「臨床心理学 (Clinical Psychology)」は、何らかの理由で心身に適応困難をきたし、悩み苦しんでいる個人を対象にし、活用しうる限りの最善の知識や技術を駆使して、目の前にいる人を理解し、その人がその人らしく幸せに生きるために最大限の援助を行うことが目的となる学問である。困っている人を援助するという現実的な要請から出発しており、実践と深く関わっている学問である。 悩み苦しむ人達に対する臨床心理学的アプローチは、人類の歴史が始まった原始時代からなされてきたが、学問としての臨床心理学の歴史は、1896年、アメリカの心理学者Witmerがペンシルバニア大学に世界最初の臨床心理学の実践の場である心理クリニックを創設したことによって始まる。1940年代後半、アメリカでは、第二次世界大戦において、人物の選抜を多数に対して短時間で行う必要性や戦後の軍人の社会復帰に伴う心理的問題に対処するために、臨床心理学が大いに利用され、学問領域としても飛躍的に発展した。 日本の臨床心理学は、第二次世界大戦後にアメリカの臨床心理学を移入することにより成立した。その後、1982年に「日本心理臨床学会」の設立を受けて急速に発展を遂げ、現在では日本の心理学関係の諸学会の中で最大規模の会員数を誇る学会にまで成長した。さらに1990年に文部省(現文部科学省)によって許可された財団法人日本臨床心理士資格認定協会による臨床心理士資格制度の導入により、臨床心理学ブームが興り、臨床心理士は高校生のあこがれの職業になった。しかし、臨床心理士資格は未だ国家資格ではなく、一民間資格にすぎず、そのため、病院、各種の相談所、学校など、職場ごとに役割や身分、待遇がまちまちで、どの職場においても総じて身分的にも経済的にも不安定な状況におかれているというのが実情である。臨床心理士の国家資格化は、我々臨床心理学に携わる者の悲願である。最近になって、国家資格創設の動きが改めて活発化しており、それほど遠くない将来、実現の見込みである。今日、不登校、いじめ、うつ病、自殺の問題など、社会にうまく適応できず悩み苦しむ人々は増加の一途をたどっている。臨床心理学に対する社会の期待や関心の高さは、こうした切実な社会的要請を反映したものであり、臨床心理学が担う役割は、日増しに大きくなってきていると言える。心理学専攻での 臨床心理学のこれまで -過去- 平成16年度に国際人間学研究科に心理学専攻が創設されて、初めての入学生が臨床心理学系の院生、中川真理子氏であった。中川氏は、当時、三重県内のハローワークで産業カウンセラーとして勤務する社会人で、主指導を武藤久枝教授(現、現代教育学部教授)、副指導を松浦均准教授(当時。現在は三重大学へ転出)と筆者(当時は准教授)が担当した。中川氏は、当時文部科学省が推進していた中学校へのキャリア教育導入にあたって、キャリア教育を受ける中学生側に必要な要因を解明するために、中学生側の準備状況を測定するための心理尺度、14項目3因子から構成される「中学生用キャリア教育レディネス尺度」を作成した(中川、2006)。ハローワークにおいて就労困難な若者に接している中で日々大きくなっていった問題意識から生まれた研究テーマであり、社会人の貴重な視点から切り込んだ非常に独自性の高い内容の修士論文を完成させた。中川氏は、大学院を卒業後、日本産業カウンセラー協会により、臨床心理学の過去・現在・将来の夢3心理学国際人間学研究科 心理学専攻教授願興寺礼子(GANKOJI Reiko)名古屋大学大学院教育学研究科修士課程修了。専門は臨床心理学。近著は「心理検査の実施の初歩」(共著)(2011、 ナカニシヤ出版)。

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