GLOCAL Vol.4
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20続してほしいと要望されるまでになってきている。また、スタッフの負担軽減をはかるため、我々の活動を春日井市の「創意と活力ある学校づくり推進事業」に申請し、今年度はそれが採択され、スタッフの交通費の一部を事業の予算から負担していただけるようにもなった。さらには、この活動がきっかけで、筆者の研究やゼミ生の卒業研究にも、生徒や保護者、先生方に協力いただけるようになり、良好な互恵関係が出来上がってきている。将来の夢 本格的に臨床心理学を志す者は、臨床心理士資格を取得できる指定大学院に進学していく場合がほとんどである。心理学専攻は指定大学院ではないため、この点ではやや分が悪く、臨床心理学を志す院生の増加にはなかなかつながりにくい。しかし、臨床心理士資格がなくても、上述した中川氏のように、心理学専攻で行った修士研究を活かし、高い専門性をもって、社会で活躍することは十分に可能である。筆者は、心理学専攻を卒業後、社会で得た知識や経験を中川氏のように、特別講師や非常勤講師として、学部学生に還元してもらいたいと考えている。身近な大学院の先輩の活躍する姿に触れることは、学生にとって大きなインパクトがあり、前向きに人生を考える絶好のきっかけになる。本心理学専攻で、是非、中川氏のような人材を育成したいと思う。 吉住准教授や筆者が行っている臨床心理学的地域援助は、これまでに一定の成果、評価が得られている。今後も地道な活動を続ければ、社会からさらに高い信頼を得ることはそれほど難しいことではないだろう。現場で役に立つ「知」を開発すために、自らの実践活動を対象化し、評価していく努力も併せて行っていきたいと思う。引用文献中川真理子(2006). 「中学生用キャリア教育レディネス尺度」作成の試み 中部大学大学院国際人間学研究科心理学専攻修士論文(未公刊).吉住隆弘 (2013). 経済的困難世帯の子どもを対象とした学習支援への取り組み 中部大学大学院国際人間学研究科レポートGLOCAL,3,15-16と、年間30日以上欠席する不登校児童生徒の数は、平成7年度から9年度にかけて急激な増加が見られたが、ここ数年は若干の増減が見られるもののほぼ横ばいの状態で推移し、平成23年度では、約13万人の不登校児童生徒が出現している。児童生徒の2.8%、38人に1人の不登校児童生徒がいるという計算になる。依然として高い出現率を示している不登校への対策として、市町村の教育委員会は、不登校の小中学生のために、学籍のある学校とは別の施設の中に、学習支援を行いながら本籍校への復帰を目指す、「適応指導教室」を設置している。 筆者らが行っている学習支援活動は、春日井市の教育委員会を介して春日井市立東部中学校より筆者のもとに協力依頼があったことに始まる。早速ゼミ生に話をもちかけたところ積極的な参加の意向が確認され、2011年12月より筆者のゼミ生によるボランティア活動が開始された。東部中学校の適応指導教室は通常の適応指導教室と違い校内に併設されている。そのため東部中学校の教師による直接指導が可能、自由に原籍学級へ戻って授業に参加できるという特徴がある。これらの特徴には長短があるが、長所を最大限に活かすべく、ボランティアスタッフ(以下スタッフ)が活用されることになった。スタッフの主たる活動は、適応指導教室に在籍する不登校傾向の生徒達に学習支援を行うことであったが、スタッフには教師や親という垂直の関係でも、生徒同士のような水平の関係でもない、斜めの関係、いわば生徒にとっては少し年上の同一化の対象となり得る兄や姉的な存在になってほしいと伝えた。さらには、生徒ひとりひとりが安心できる居心地のよい空間づくりにも心を配るように指導を行った。なお、筆者は、中学校との連絡、調整、スタッフを支えたり助言指導を行うスーパーバイザーとしての役割を担った。 活動当初は、在籍者が5名。同じ教室に居ながら個々人が壁で閉ざされた別々の空間の中にいるような全くコミュニケーションがとれていない、活気のない状態であった。スタッフがその中に加わっていくと、比較的早い段階で、生徒とスタッフの間でコミュニケーションが成立。そこでの二者関係が安定してくるにつれて、スタッフに見守られていると、生徒達は、スタッフを自分の弱い自我を補強する“補助自我”として活用し始め、自分の空間から出て他の生徒や先生と自発的に交流を始めるようになっていった。コミュニケーションが活性化されるにつれ、しだいに適応指導教室は凝集性の高い居心地の良い仲間集団へと再編成されていくことになった。そうした適応指導教室内の変容は、生徒ひとりひとりにも変化をもたらし、生徒達は様々なことに対して小さなチャレンジ(たとえば1時間だけ好きな授業を原籍学級で受けてくる、午前中で帰宅していた生徒が給食を食べてから帰宅するなど)を始めるようになる。いくつものチャレンジの中で、成功体験を重ねた生徒達には自信が芽生え始め、学習にも以前より意欲的に取り組むようになった。さらには、中3の生徒が受験を決意して、スタッフと意欲的に勉強し始めると、それを見ていた2年生以下の生徒達は、高校進学を半ば諦めていた者も「自分も高校へ行きたい。行けるかも」と受験に対して前向きな発言をするようになる。生徒ひとりひとりがそれぞれのペースで、皆、確実に成長し、それがまた相互にポジティヴな影響を与え合うという、円環的連鎖が適応指導教室内に構築されていくことになった。 一方、活動に参加しているスタッフの学生達の方も、どのように接したら生徒達が心を開いてくれるのかと、悩み苦しみながら、試行錯誤を繰り返す中で、自然に発達促進的な態度を身につけ、最近では、生徒達の内的な発達を見守りながら彼らのペースで学習支援を行えるようになってきている。生徒から厚い信頼を寄せられ、「○○さんが来てくれる日は絶対学校へ行く」とまで言われるスタッフもいるほどである。スタッフ側も活動を通して日々成長していることを実感させられる。 中学校の先生方にも、「あの生徒がここまで頑張れるようになるとは思っていなかった」と、生徒達の成長を感じ取っていただいており、今では、この活動を長期に渡って継心理学

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