GLOCAL Vol.5
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2014 Vol.52014 Vol.511自らの「幸せ」を掴み取る 就職活動における企業側の選択基準は不透明で、活動しても選考は思うように進まず、内定にまでなかなかたどり着かない者は多いだろう。大学生は綿密な計画を立てても、計画通り就職活動を進めることは困難である。 しかし、だからといって進路選択にとりかからなければ、進路を決定することはもちろん、キャリアにおける偶発的な出来事をキャリア形成のチャンスとしていかす機会をも逸する。 他方、進路選択にとりかかれば移行過程でたくさんの失敗を経験することになるだろう。しかし、そうした失敗もチャンスとして受け入れられるようなスキルを育むことは可能である。大学生が自らのキャリアにおいて自らの力で自らの「幸せ」を掴み取ることができるよう、偶然をチャンスとして活用するためのスキルを育むキャリア教育が求められる。引用文献Mitchell, K. E., Levin, A. S., & Krumboltz, J. D.(1999). Planned happenstance : Constructing unexpected career opportunities. Journal of Counseling and Development, 77, 115-124. 文部科学省(2014). 学校基本調査-平成26年度(速報)結果の概要- (2014年8月31日).日本学生相談支援機構(2011). 大学、短期大学、高度専門学校における学生支援の取り組み状況に関する調査(平成22年度)(2014年8月31日)高綱睦美・浦上昌則・杉本英晴・矢崎裕美子(印刷中). Planned Happenstance理論を背景とした機会活用スキルの測定 日本キャリア教育学会第36回研究大会発表論文集.浦上昌則(1996). 就職活動を通しての自己成長-女子短大生の場合-教育心理学研究, 44, 400-409.若松養亮・下村英雄(編著)(2012). 詳解大学生のキャリアガイダンス論-キャリア心理学に基づく理論と実践-金子書房.め、大学生は就職活動を行いやすいこと、その上大学そのものが無料で利用できる就労支援機関として機能し、大学生はその援助を得られやすいことなどがあげられる(若松・下村, 2012)。 また、大学から職業社会への移行は、確かに困難ではあるが、こうした厳しい環境は学生に身体的・精神的ストレスなどのネガティブな影響を与えるだけではない。たとえば、浦上(1996)は就職活動で求められる自己と職業の理解・統合が自身の就職活動に対する振り返りを通して自己成長力を高めることを明らかにしている。実際、学生は就職活動を通して、自己理解をすすめ、社会に関心を持つようになる。また、自分の意見を発言する積極性が増し、さまざまなビジネスマナーまで身につける。このように、厳しい環境を乗り越えることによって、大学生は一回りも二回りも大きく成長する。 これらのことを勘案すれば、大学生は厳しい移行環境の中でも相対的には恵まれた環境におり、そうした環境の中で自身のキャリアをより良いものにするチャンスをも持ち合わせているといえよう。偶然をチャンスとして 手繰り寄せる それでは、こうしたチャンスを大学生は自ら手繰り寄せることはできるのだろうか。そもそも、個人のキャリアは予想しない偶発的な出来事によって大きく左右される(Mitchell, Levin, & Krumboltz, 1999)。たとえば、テレビでたまたま取り上げられていた企業に興味を持ったり、学内企業説明会の空き時間に呼び止められた企業にエントリーしてみたら内定がとれたりと、偶然がしばしば自身のキャリアをより良いものにするチャンスとなりうる。 Mitchell et al.(1999)は、人生の中で起こる偶然を人生の計画に組み入れることで、キャリア形成のチャンスとしていかすことが可能であるとして、“Planned Happen-stance Theory” を提唱した。その中で、クライエント自身が就職機会を認識し、作り出し、チャンスとして活用するためのスキルを提案している。 高綱・浦上・杉本・矢崎(印刷中)では、この “Planned Happenstance Theory” を参考に偶然をチャンスとして活用するスキルとして6つのスキルを想定した尺度を作成した。具体的なスキルとしては、①興味の幅を広げたり、興味のあることを探索、探求する「興味探索スキル」、②苦労することや手間のかかることでも、それを持続する「継続スキル」、③自分の考え方や態度、自分の置かれている環境を、より適応的なもの、より望ましいものへ変化させる「変化スキル」、④結果やプロセスに対してポジティブな見通しを持つ「楽観的認識スキル」、⑤結果や成果が不確かな場合でも、回避せずそれを始める「始動スキル」、⑥「弱い紐帯」をできるだけ多様な他者とつなげる「人間関係スキル」の6スキルである。 その上で、これら6スキルと「チャンスをつかまえて、それをいかすこと」という項目との関連性について検討した。その結果、6つのスキル全てと正の相関(r = .40~.60, ps < .01)が得られた(高綱他, 印刷中)。さらに、主観的幸福感との関連性も検討したところ、これらのスキルを有している者ほど、チャンスをいかすだけにとどまらず、高い主観的幸福感を有していることが示された(Figure 2)。 これらのことから、「興味探索」「継続」「変化」「楽観的認識」「始動」「人間関係」といったスキルは、キャリアにおける偶発的な出来事をチャンスに変えうるスキルであり、スキルによってチャンスをいかせる者ほど、自らの「幸せ」を手繰り寄せることができると考えられる。Figure 2. キャリアにおける6スキルが主観的幸福感に及ぼす影響(共分散構造分析モデル)

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