GLOCAL Vol.5
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2014 Vol.52014 Vol.51スポーツ保健医療学科 講師西垣景太(NISHIGAKI Keita)中部大学大学院国際人間学研究科心理学専攻博士後期課程修了。専門は体育心理学、スポーツ心理学。修士(体育学)(東海大学)、博士(心理学)(中部大学)。近著「体育の教科書 指導用」(共著)(2010、データハウス)運動経験がもたらす情動知能への影響Salovey & Mayer(1990)が提唱した概念である。Mayer & Salovey(1995)は、情動知能が対人間、あるいは様々な社会状況において生じる複雑な問題において大きな役割を果たすことを提唱し、情動知能に関する定義に修正を加えながら、「情動を知覚し、思考を助けるために情動を利用すること。また、情動及び情動の知識を理解し、情緒及び知的な成長を促すように情動を制御すること。」と定義づけた(Mayer & Salovey,1997)。  また、Goleman(1995)が出版した“Emotional Intelligence”は、世界的なベストセラーとなり、Time誌などの多くのマスコミに取り上げられた。Time誌が「EQ」という見出しを付けたことで、「EQ」という言葉で情動知能が広まるきっかけとなった。「EQ」は、「Emotional Intelligence Quotient」や「Emotional Quotient」として「心の知能指数」と訳され、知能指数(IQ)と対立するものではなく、両者のバランスが重要で、相互に不可欠なものだとされている(ゴールマン, 1996)。Goleman(1995)は、情動知能を「自分自身を動機づけ、挫折しても我慢強く頑張れる能力、衝動をコントロールし快楽を我慢できる能力、自分の気分をうまく整え情動の乱れに思考力を阻害されない能力、他人に共感でき希望を維持できる能力」と定義づけ、会社や学校での成功に重要な役割を果たすものとして取り上げている。さらに、情動知能の重要な特徴の1つとして、先天的はじめに 筆者は体育学士と体育学修士を取得しており、研究の専門領域は体育心理学・スポーツ心理学である。 心理学に興味を持ち始めたのは、学部生の頃にテレビで「キレる」という言葉を聴くようになり、運動・スポーツ場面での心のコントロールについて考えるようになったのがきっかけである。運動・スポーツ場面では、自分自身や他者の心のコントロールの機会が多くあり、良いパフォーマンスを発揮したり、良いチームワークを構築したりするためには、重要な要素であると考えられる。そこで、運動経験と自他の心のコントロールに関わる能力は、どのような関連を示すのかを明らかにすることを研究テーマとした。 以下の文章は、中部大学大学院国際人間学研究科心理学専攻博士後期課程において、博士(心理学)の学位を取得した際の論文の概要を紹介するものである。内容についての更なる詳細は、論文を参照されたい。研究の背景と目的1.研究の背景 文部科学省は、2011年8月に「子どもたちのコミュニケーション能力を育むために」という具体的なテーマのもと審議経過報告を挙げた。そのうち、子どもたちのコミュ二ケーション能力が求められる要因の1つとして、このような時代を生きる子どもたちは、積極的な「開かれた個」(自己を確立しつつ、他者を受容し、多様な価値観を持つ人々と共に思考し、協力・協働しながら課題を解決し、新たな価値を生み出しながら社会に貢献することができる個人)であることが求められるとしている。現在の子どもたちの課題としては、インターネットを通じたコミュニケーション手段が普及しているとともに、外での遊びや自然体験等の機会の減少により、身体性や身体感覚が乏しくなっていることが、他者との関係づくりに負の影響を及ぼしていると指摘している(文部科学省, 2011)。 スポーツ心理学領域においても、子ども達の運動経験によって心のコントロールができるようになるかという研究が「社会的スキル」や「ライフスキル」といった概念を用いて研究が進められている。しかし、どのような運動経験による効果なのか、どのような指導が有効的なのかなど、明らかになっていない点は多い。その中で、本研究では情動知能(Emotional Intelligence)という概念に着目した。2.情動知能とは 情動知能とは、Gardner(1983)が提唱した多重知能理論(multiple intelligences)や、Thorndike(1920)が提唱した社会的知能(Social Intelligence)を背景とし、

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