GLOCAL Vol.5
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2小学校の頃の運動経験の有無が、大学生の頃の高い情動知能の得点に関連を示している結果が得られた(第2節)。2.児童期の運動経験がもたらす情動知能への影響(第3章)1)児童期の習い事による検討 この章では、児童期の運動経験に着目し、運動系の習い事と、その他の習い事について情動知能への影響の違いを検討した。その結果、運動系の習い事の要因が情動知能と有意な正の相関を示したのに対し、運動以外の習い事では情動知能との有意な相関はないことが明らかになった。そのため、運動以外の習い事では得られない情動知能への要因が、児童期の運動経験にはあることが示された。 また、小学校の低学年と高学年を比較した結果、自尊感情が未発達な低学年においては、自分自身の情動知能を過大もしくは過小評価しており、他者評価との一致を示さないのに対し、高学年になると徐々に他者評価との一致を示す結果となった。したがって、情動知能は児童期の低学年から高学年にかけて成長の過程を示し、自己の情動知能を正しく把握することが明らかになった。 運動経験の要因の面からは、低学年では、より熱心に、より楽しく感じる運動系の習い事が、情動知能の「自己対応」の領域全般と特に「目標追求」に関する項目、他者への「気配り」に関する項目への意識を高めることが明らかになった。また、高学年においては、運動系の習い事の数を多く経験することや、より熱心に、より楽しく感じる運動系の習い事の経験が、情動知能の他者への「協力」、状況に応じた面での「楽天主義」や「人材活用力」への意識を高めることが明らかになった(第1節)。2)児童期の運動教室による効果 児童期の運動教室による約1ヵ月という短期の縦断的な調査を実施した。異なる2集団への調査において、走力という運動能力の向上とともに、教室の前後で情動知能への変化が見られるかを検討した。その結果、走力の有意な向上も認められ、1つの集団では、情な要素が少なく、教育や学習を通して改善や習得されるものであることを強調している。 情動知能の評価は、内山・島井・宇津木・大竹(2001)が作成した尺度をもとに、自己洞察や自己に対する動機づけなど自己に対する情動の認知やコントロールに関する「自己対応(intrapersonal)」、共感性や愛他心など他者への情動の認知やコントロールに関する「対人対応(interpersonal)」、状況洞察やリーダーシップなど状況に応じた情動の利用に関する「状況対応(situational)」の3つの領域と、3つの合計点によって評価を行うこととした。3.研究の目的 運動場面においては、情動の知覚や理解、状況に応じた利用の場面が多くあり、運動経験が情動知能の向上に効果的であるという仮説を立て、その関連性を明らかにするために以下の3つのことを目的とした。  第1に、運動経験と情動知能の関連についての検討として、大学生を対象とした調査を行った。大学生を対象とした運動経験と情動知能の関連を調査した先行研究があるものの、横断的な調査にとどまっている。しかし、運動経験と情動知能の向上の因果的関係を明らかにしていくためには、調査対象者の時系列的な変化を検討していく縦断的な調査を進めていくことも必要だと考えられる。そのため、運動経験によって情動知能が効果的に向上することを明らかにするため、縦断的な調査と過去の運動経験に遡って検討するための回顧的な調査から、運動経験と情動知能の向上について明らかにすることを目的とする。 第2に、心身の発達過程の中で、児童期や青年期といった時期と、運動経験の要因から、情動知能への影響を明らかにすることである。特に、社会性の形成にとって大切な時期である児童期の運動経験と情動知能の向上についての研究は皆無である。そのため、児童期の運動経験に着目し、その関連性を明らかにすることを目的とした。  第3に、研究の最終目標である情動知能の効果的な向上を目指した運動指導法について検討するため、指導者自身が指導場面において情動知能の向上をどの程度意識しているのかを明らかにすることを目的とした。また、指導方法に対する意識との関連も検討することとした(第1章)。結果の概要1.大学生の縦断的検討と回顧的検討からみる運動経験と情動知能の関連(第2章)1)大学生の縦断的調査 スポーツ系学科の大学生を対象とした2年間にわたる計5回の縦断的な調査を実施した。その結果、1年生の頃の情動知能の得点よりも3年生での5回目の調査での得点が、情動知能の「自己対応」、「対人対応」、「状況対応」に応じた領域の得点全般に有意な向上が示された。また、内山ら(2001)が示した一般学生の得点よりも高い得点を示した。また、本研究では、全5回の合計得点において、1年生から3年生まで運動部に所属し続けた運動部所属群よりも、その他の群が、情動知能の合計点と「対人対応」の得点が有意に高い結果となった。この結果は、その他の群には学外で運動を継続している学生も含まれている事も影響していると考えられるため、更なる分析と調査対象者を増やした比較検討も今後の研究として求められる(第1節)。2)大学生の回顧的調査 大学生を対象とした過去の運動経験からの回顧的な調査では、現在の運動経験のみならず、小学生の頃からの過去の運動経験を広く捉え、大学生の頃の情動知能の得点にどのような影響を与えているのかを検討した。その結果、男子と女子では、運動経験の日数や運動に対する熱心さなどの要因が情動知能に与える影響は異なることが明らかになった。また、男子の方が、小学校から中学や高校へと学年が上がるにつれて、運動経験年数や熱心さなどの運動経験の影響が大きくなっていくことが明らかになった。さらに、運動経験の有無による所属要因では、男女ともに中学、高校、大学での運動部への所属経験よりも、

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