GLOCAL Vol.5
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4国際人間学研究科心理学専攻 講師佐藤友美(SATO Tomomi)2012年お茶の水女子大学人間文化創成科学研究科博士後期課程修了。博士(人文科学)。専門分野は発達心理学。特に幼児期・児童期の子どもを対象に、社会性の発達について研究を行っている。社会性の発達に寄与する子どもの「誤った」意図判断が、もしそばにある積み木に躓いて転び、手が積み木にぶつかったのであれば、それは過失であったと考えられる。さらに、積み木のお城が壊れなかったとしても、相手が押したのであればそれは故意に壊そうとしたのであり、転んで手がぶつかったのであれば壊そうという意図はなかったといえる。つまり結果がどうであれ、行為から意図は判断されなければならない。 しかし子どもは、意図を判断する際に結果に注目してしまうという意図理解の未熟さを持っている (Schult, 2002)。つまり、お城が壊れればそれは故意的であり、壊れなければ故意的ではないと判断するのである。このように、子どもは結果に注目することで、誤った意図判断をすることが示されてきた。しかしこうした従来の知見は、他者とのやりとりのない、つまり社会的なコンテクストとは切り離された状況において見い出されてきた。 具体的には、自分で作った積み木のお城を自分で壊したときの、自分自身の意図を判断させていた。しかし対人関係の構築・維持に関わる意図判断を明らかにするためには、社会的なコンテクストに埋めこまれた意図、つまり自分に影響を及ぼしてくる他者の意図を正しく判断する必要がある。具体的には、自分が作ったお城を壊してきた相手の意図をどのように判断しているのかを検討する必要がある。これまでの知見のように、子どもが動他者との良好な関係性の維持・ 構築には何が必要なのか ヒトは「ソーシャルアニマル」である(Aronson, 1992)。ヒトは社会を構成し、他者との関わりの中で生きている。社会の中で適応的に生きるためには、他者と良好な関係を構築したり維持したりする能力が不可欠である。人が他者と良好な関係性を築きそれを維持していく能力とはどのようなものだろうか。そしてその能力は発達過程の中でどのように獲得されていくのだろうか。このような、社会性に寄与する能力とその発達過程の解明が、著者の研究テーマである。社会性の認知基盤としての 意図理解 社会性に寄与する能力の一つとして、「他者の心の理解」を挙げることができる。他者の心の理解とは、他者の感情、欲求、意図を正しく推測することをいう。その中でも「他者の心の理解」の中でも特に重要な能力として、他者が何故ある行為を行ったのかを理解する他者の「意図」の理解が挙げられる。他者の意図の理解は、その他者への対応の仕方に直接影響を及ぼし、さらには他者との関係性にも影響を及ぼす。たとえば、“自分が作っていた積み木のお城を友だちが壊した”という状況を考えてみたい。もし友だちが故意に壊したのであれば、友だちに対して異議申し立てをするが、もし壊したのが過失なのであれば、許すだろう。ここで相手の意図を誤って判断すると、他者との関係性は悪化しうる。もし相手が壊すつもりはなかったのにもかかわらず壊してしまったときに、相手の意図を「わざと壊そうとしたのだ」と誤って解釈すると、相手を不当に非難することにつながる。実際、このような誤った判断をする傾向の高い子どもは、相手に対する攻撃的行動の頻度が高く、さらには他者との良好な関係性を構築することも困難になる (Crick & Dodge, 1994)。つまり、意図を正確に判断する能力が、他者との良好な関係性の構築・維持に重要であるといえる。 大人は、他者の意図をある程度容易に正確に理解できる。しかしこの能力は生得的に備わっているわけではない。意図の正しい判断は5、6歳以降に獲得されるといわれている (Schult, 2002)。それでは、正しい意図判断ができない子どもはどのように意図を判断しているのだろうか。 本来意図は、行為によって引き起こされた結果の内容に関わらず行為に注目して判断しなければならない。たとえば、友だちが壊したという結果が故意的だったのか過失だったのかを判断するためには、友だちが「どのような行動をとって」壊したのかに注目しなければならない。もし、強く積み木を押したのであれば、それは故意的であると判断できる

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