GLOCAL Vol.6
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15浜松市沿岸部における津波避難施設の圏域分析避難に影響を与える環境条件に注目して以上より、避難時には、街路ネットワークや環境条件による影響を大きく受け、避難圏域が縮小することが指摘された。結果として、現時点で、浜松市における津波避難の可能性は厳しい状況にあると言わざるを得ない。今後は、できる限り、現実に即した分析を通じて、地域に応じた防災対策の方向性を検討していく必要がある。本当に津波から逃げ切ることは できるのか?東日本大震災による津波被害を受けて、沿岸都市では現在、津波対策が喫緊の課題となっている。そして、今後はリアス式海岸のような津波常襲地域だけでなく、遠浅海岸における対策が必要である。津波から逃れるためには、津波に飲み込まれる前に安全な場所へと避難することが望ましい。しかし、現状では、必ずしもそのような避難が可能であるとはいえない。本報告は静岡県浜松市を事例に、津波からの避難が可能な範囲を示す避難圏域の分析を通じて、津波避難の可能性を指摘する。さらに、われわれが津波から避難するときは、さまざまな環境条件による影響を受ける。本報告では、街路ネットワークを移動しなければいけない空間的制約と、道路傾斜による歩行速度の減退や、災害時に通行不能となる障害地点を考慮した場合の影響について考察した。浜松市における避難圏域の 分析結果と考察図表は、それぞれの条件における避難圏域の分析結果である。読み取れる結果は、以下の5点である。1)  いずれの場合も、中央部に避難困難地域(空白地域)が広がっている。2)  ①街路ネットワークのみを考慮した場合でも、避難可能人口は約4割強である。3)  ②傾斜条件と③障害条件を考慮すると、避難圏域はさらに縮小する。4)  ②傾斜条件による影響は、浜堤や鉄道路線付近で見られる。5)  ③障害条件による影響は、津波避難施設が鉄道や河川付近に位置すると避難圏域の縮小が大きい。国際人間学研究科 歴史学・地理学専攻 博士前期課程佐野浩彬(SANO Hiroaki)1989年静岡県生まれ。中部大学大学院国際人間学研究科(歴史学・地理学専攻)博士前期課程在学中。専攻は都市地理学、地理情報科学、防災論。とくに、地理情報システム(GIS)を用いた、災害発生時における避難行動の分析を中心に、各自治体における防災対策の評価や展望について検討している。分担執筆に、中部都市学会編『中部の都市を探る-その軌跡と明日へのまなざし-』(風媒社、2015年)。図表 浜松市沿岸部における津波避難施設の避難圏域の分析結果

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