GLOCAL Vol.7
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2差別化できる優位性を持った強力な製品を持つことにより、新興国で課題となる売上債権の回収、流通網構築、政府との関係などが容易になる。多くの場合、進出前にこのような優位性を本国市場で確立している必要がある。このような基盤を本国で確立していないのに、日本市場で窮地に陥ったからアジアに進出した場合、ほとんどの場合討ち死にすることになる。アジア市場において日本企業が優位性を持つのは、多くの場合、高機能・高品質の高級製品であるが、アジア市場においてはこれらの製品の市場規模は相対的に小さく、市場規模が大きくて成長性の高い「ボリュームゾーン」を逃すことになる。ただ、コスト面で現地企業と正面から競争することは困難である。品質・機能の優位性を保ちながら、コストダウンを進めて、やや割高な価格に見合う顧客にとっての「価値」を提供する必要がある。文化面などを含めて、製品・サービスの現地への適応が必要である。コストダウン、現地適応のためには、生産・研究開発面での現地化を進めていく必要がある。同時に、所得格差の大きなアジアにおいては、高価格帯市場も大きく成長性も高い。また、アジアの発展によって、市場の高級化も急速に進展しており、これへの対応と、高価格帯市場における競争力の強化の必要性も高い。森松工業の場合、進出後すぐに現地企業に製品を模倣されて差別化製品を失い、苦境に陥った。この時、優秀な現地人従業員主導で別業種向けの高付加化価値製品を開発して、差別化に再び成功した。また、現地調達・生産、大規模投資による低コスト生産・短納期化も実現して、価格面・納期面での競争力を確立した。③ マーケティング機能の強化上記の様に、中国を筆頭にアジアにおける消費市場として重要性が増しており、また、中堅・中小企業は、系列企業から日系の非系列、日系企業から欧米企業、さらには現地企業へと顧客の多角化を進めていく必要があるので、国際マーケティングの重要性が高まっている。しかし、モノづくり志向の強い日本リピン、ベトナム、ミャンマーなどにシフトしている。一方で、④中国などにおいては、高学歴化や産業構造の高度化により、高度人材の供給やより複雑な製品の生産における優位性は高まっている。政治は経済政策・外資政策・対日関係などへの影響を通じて、依然としてアジア諸国・地域の立地優位性を大きく左右しており、この状況の把握とそれへの対応が重要である。これに関連して、法治の弱さが、アジア諸国の投資環境の大きな欠点である。特に、儒教的な関係主義の伝統が強い一方で欧米の影響の少ない中国においては、取引の不確実性・模倣品の横行などの問題を生じ、これへの対応が大きな課題になっている。グローバル化の進展により経済的な障壁が低下し、また、アジアにおける国際経営の重点が、生産目的から市場志向に変化する中で、文化が克服すべき障壁として重要性を増している。これまでも、中国における日本企業の人的資源管理・マーケティングなどの経営上の困難は、この問題の理解と対応が不足した面が大きかったと考えられる。アジアにおける企業間競争に関しては、中国における企業間競争が最も激しく、インドがこれに次ぎ、ASEANにおける企業間競争は相対的に緩やかであると言えよう。一方では、全世界から企業が参入している中国市場においては、欧米企業との取引機会が生まれると言う利点もある。中堅・中小企業アジア進出の成功要素主に中国の上海に進出している中部圏中堅・中小企業の事例研究から、アジア市場の状況を勘案して演繹的考察することにより、アジア市場における中堅・中小企業の成功要素には以下のようなものがあると考える。この考察に当たっては、中国で最も成功した日本企業の一つだと言われる岐阜県本巣市のステンレス製タンクメーカーである森松工業(株)の事例を参考にした。① 適切な進出先と進出時期の選別上記のように、アジアは多様な発展段階の国から構成されているので、自社の商品の性質、能力などからどの市場にどの段階でどのような形態で進出するかを選択する必要がある。このためには、進出以前に十分な市場調査を行うことによって市場の複雑性と変化に対応する必要がある。森松工業の場合、進出前に社長自らが何年にもわたって定期的に中国を訪れて市場リサーチを行い、世界の多くの投資候補地域と比較検討を行った結果、中国が一番だとの確信を持って進出した。進出時期も、1989年の天安門事件から日が浅く競合相手もほとんどいなかったことから、欧米日優良企業顧客の獲得することができ、先行者利益を享受した。②  製品・サービスの差別化と現地市場への適応

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