GLOCAL Vol.8
11/20

2016 Vol.82016 Vol.82016 Vol.89ユーザー参加型の地図作成が成立する理由でもある。情報作成の間口の広さと多様さ、情報の更新頻度の高さ、そして図化における高い柔軟性がデジタル地図の面白さなのである。バーチャルとリアルのハザマ バーチャルリアリティ(仮想現実)が言われて久しいし、現在も拡張現実(AR:Augmented Reality)の浸透にみるように進化し続けている。先述したとおり、現在の位置情報とデジタル空間内の位置情報が対応付けられることは、ある意味でリアルとバーチャルをリンクすることでもある。このリンクがAR等の形でリアルに表現され、多数の人間が経験として共有した場合、この経験はバーチャルであろうかリアルであろうか。仮想と現実は言葉では対義語でありながら、昔から幽霊や妖怪などの「仮想」は呪いや祈りなどの形で「現実」に影響を与え続けてきたし、時代によってはその境界は曖昧でさえあった。一定以上の人数が概念や経験を共有することは、仮想と現実の境界を曖昧にすることなのかもしれない。 一方でロボティクスの発達はまた少し異なる面を持っているようにも見える。すなわちVRが視覚や聴覚など五感を欺いて現実感を与えるのに対し、ロボットは仮想的な情報に支えられて現実空間に物理的にその姿を現しているともいえる。仮想空間の情報をもとに物理的に現実に働くロボットはまさに現代の式神なのかもしれない。いずれにしても現在の「仮想」はより具体的な影響力を持って、現実に影響を与えるようになっている。デジタルの地理空間情報はこうした境界をもつなぐ基盤的なデータのひとつとしても大きな意味を持っているのである。主要参考情報・International Society for Digital EarthURL:http://www.digitalearth-isde.org/(2015/12 閲覧)・Open Street Map(OSM)URL:https://www.openstreetmap.org/(2015/12 閲覧)・リモートセンシング技術センターURL:https://www.restec.or.jp/(2015/12閲覧)情報の活用:デジタルアース さて、こうして収集され、主にネットを介してやり取りされる膨大な位置情報付きデータは、広い意味でのGISをもちいて処理される事になる。広い意味でというのは、現在の地理空間情報はビッグデータ化し、多岐に渡っているため、電子的な地理空間情報を扱う事にのみ特化した、いわゆる従来のGISを利用するだけではないからである。いずれにしても、位置情報を介して異なる内容の地理空間情報を統合する事、そしてスケールや境界などの区切りを持たずシームレスにこれらの処理や可視化が行われることが重要である。1998年に当時の米国副大統領、アル・ゴアによって提唱されたデジタルアースは、多様な地理空間情報の統合を基盤として、地球規模の複合的な課題を検討しようとするものであった。環境問題や各国の紛争をはじめとして国際的な課題が山積する現在、計測結果というエビデンスに基づくコミュニケーションや合意形成を進めるためにも、こうした情報基盤の重要性はますます高まりつつある。この基盤の活用や、基となる情報の収集には組織や国、研究者だけではなく、一般の市民も関わる事が可能であるし、むしろ重要と考えられている点は特徴的である。官から私そして「公」へ データの爆発 歴史的にみても、地図に代表される地理空間情報は多くの場合、為政者すなわち官の必要性から作成されてきたケースがほとんどである。そう考えると2000年前後を境に、地理空間情報が一般人の日常へ急速に普及し始めたことは画期的な出来事であったと考えられる。このことは一方では地理空間情報が「デジタル情報」としての側面を色濃く持つようになったこととも関係する。スマートフォンというネットへの入り口を持ち歩くようになった結果、現実の位置とバーチャル空間での位置をリアルタイムで対応付ける必要が生じる。秒単位で刻々と変わる環境と位置を反映するためには必然的に地理空間情報はデジタルとならざるを得ないし、それを個々のユーザーが自由に扱えることでサービスが成立する。ここにおいてユーザーは地理空間情報を受け取る側でもありかつ発信する側にもなったといえるだろう。さらに言えば、一般ユーザーの発信する、あるいはユーザーから収集される膨大な情報は、ある部分で個々のプライバシーと密接な「私」の部分を持ちつつも、もう一方ではすでにビッグデータとしての「公」の性格を持ち始めている。スマートフォンやSNSの利用を通し、相互に融通しあう「私」の情報は「公」のものとして活用されており、しかも従来のいわゆるトップダウン型の情報とは、生成の過程も情報としての内容も異なる側面を持っている。あるいは既に私的な情報に対する新たな価値観が生まれているのかもしれない。地図は「静止した面的枠組み」ではなく個々に動的な地物の集約表現の一形態となった ここで一度、従来の紙地図と現在のデジタルの地図との違いについて考えてみたい。従来の地図は、静的な時空間の一断面を表現したものである。位置座標はその枠組み自体が有しており、記載されている個々の地物の位置はその枠組み(例えば図郭の座標値や地物相互の相対的な位置関係)から与えられる。これは、個々の地図記号は単体としては意味を持たず、もちろん地図と切り離された単独の状態では情報として成立し得ないことを意味する。これに対し、デジタルの空間情報の場合、個々の地物は、たとえ単独であってもその座標と計測値(属性値)の両方を保持している事が一般的である。つまり、多岐に渡る無数の地物の計測結果を必要に応じて集約した結果が地図になるということである。特定の種類のみを組み合わせるだけでなく、属性情報に時間についての記述があれば、同じ時間や時間幅の情報だけを地図化することも可能である。もちろんこれは、先述のOSMにみるように、一人のユーザーは地図の一部を作成できるだけであっても、全体としては地理空間情報として大きな意味を持つという

元のページ  ../index.html#11

このブックを見る