GLOCAL Vol.8
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1 小誌の誌名GLOCALは、GLOBALとLOCALを合わせてつくった造語ですが、これはグローバル・国際(G)とローカル・局地・地域(L)をともに重視する本研究科の精神を体現した言葉でもあります。GとLは対極的な位置にあるように見えて、実は意外に近い関係にあるといえます。国際的な交通・通信手段の飛躍的発展にともない、Gは遠慮なくLの領域に入り込むようになりましたが、Lもまた以前に比べると気軽にGの世界に飛び出していけるようになったからです。どこまでがGで、どこからがLなのか、両者を分ける境界が曖昧になりつつある。もはや明確な境目など存在しないのではないかと思われるほど、両者は互いに入り組んだ関係にあるように見えます。 小誌本号には、「境界」や「境目」を種々の側面から取り上げたエッセイが幾編か載っています。人と人との間を隔てる垣根や境界は薄れていっても、国と国の間ではそうもいかず、領土や領海を区切る境界線はむしろ強調されるようになった。そうかと思えば、コンピュータ技術の高度な発展にともなってバーチャル空間が現実空間の中に入り込むようになり、仮想と現実が融合した世界がいつの間にか生まれている。これらは、依然として「境界」にこだわる人間の本性と、「境界」を乗り越えてむしろ異次元空間を押し広げようとする人間の熱意が、葛藤しながらもともに存在することを示しています。 「境界」を地球表面や地図などの空間的次元ばかりでなく時間という次元も含めて考えれば、時間の境目つまり歴史的な時代区分の問題が浮かび上がってきます。のちの社会に大きな影響を与えることになる巨大地震や津波がもたらした災害や、国家間の戦争にもつながっていった政治的軋轢は、時代や社会を画する分水嶺といえるでしょう。忌まわしい遠い過去のものと思われていたテロリズムが、以前とは比べものにならないほど強力な爆破力をともないながら頭をもたげ、グローバル社会を震撼させているのが、現代という時代です。唯我独尊の境界線を勝手に引き、過去の歴史に学ぼうとしない愚かしい時代錯誤をすぐにとめるだけの知恵を、現代人はまだもっているとはいえません。 グローバルとローカル、リアルとバーチャル、過去と現代、先進国と途上国などなど、境界や境目があるようで実は曖昧な、そんな不可思議で不安定な世界の中で、われわれは日々を送っています。混沌とした現代社会をどのように生きていくべきか、そのよすがとなる羅針盤を求めて日々、教育・研究に励んでいる本研究科の活動の一端を、小誌を通してご理解いただければ幸いです。2016年3月1日林  上(国際人間学研究科長)ごあいさつ

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