GLOCAL Vol.10
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6内蒙古大学との学術交流:ツーリズム研究基盤の形成と漢文化周辺地域の「民俗」数年前に蒙古学学院に「ツーリズム学科」ができたという点である。しかも蒙古学学院はモンゴル語・文学、モンゴル文化・民俗、モンゴル史の、3つのパートに分かれているが、このうちモンゴル史の中に「ツーリズム専攻」ができているということである。 歴史学の中にツーリズム専攻があるのは、「中国の場合歴史観光がツーリズムの中心をなすため」という説明であるが、観光社会学や観光人類学、観光マーケティングなどが中心の日本と比べるとやや違和感が残る。 またツーリズム専攻のみが後発であるために、ここだけが大学院のプログラムを持っておらず、日本の大学と交流して、先々はツーリズム研究をする学生を大学院生として送りたいというご要望もあった。この際に「個人的学術交流はいくらでも」とお答えしたところ、帰国後、10月中に内蒙古大学で講演をするよう、ブリンジラガル先生に招聘を受けた。内蒙古大学との出会い 昨年来、ふとしたことから中国の内蒙古自治区にある内蒙古大学や、この地域の研究者と出会い、学術交流を行いつつある。昨年10月には自身が内蒙古大学(呼和浩特市)と、内蒙古科技大学(包頭市)において講演を行うとともに、学術交流を行う機会を得た。 「ふとしたこと」というのは、国際関係学部の新学科発足に合わせて、教員有志で比較的身近な「アジアの多民族・多言語・多宗教地域」に視察旅行をしており、昨年夏たまたま内モンゴル地域を選んだことである。そしてその際に本研究科博士後期課程所属の内モンゴルからの留学生に現地での案内者を紹介してもらった。留学生は、この時に自分の義理の兄で、内蒙古大学蒙古学学院(モンゴル学学部)所属のブリンジラガル先生を紹介してくれた。これがすべての始まりである。 本稿では、今回の内蒙古大学との交流の経緯や、それを通じた内モンゴルに関わる自身の研究関心について簡単に述べたい。内モンゴルの地域的特性 昨年夏は見聞を広めるための視察旅行であったが、予想以上に得た知見が多かった。「内蒙古自治区」ではあるが、中国の一地方でもあることから、実際のところ漢族住民や、回族の人々も居住しており、「多民族・多言語・多宗教」であることは理解していた。ただそのような中で、予想以上にモンゴル語やモンゴル文化が生きているように感じられた。 たとえばモンゴル族の人同士の電話での会話が、中国語とモンゴル語の両者を交えて行われる場面を耳にしたし、街中の看板には、たいていの場合漢語に加えてモンゴル文字が記されていた(写真1)。 また、モンゴル族の人で、現在社会の中心にいる40歳代位の人々の中に、日本留学経験を持つ人がかなり多いように思われる。一時期、日本留学のブームがあったとの話も聞く。モンゴル語と日本語の構造がよく似ていて日本語を学びやすいとの説明もあった。その説明が説得力を持ってしまうのは、日本語のうまい研究者や、日本の事情に通じた人々によく会うためでもある。歴史学科の中の「ツーリズム専攻」 上記訪問の際に、ブリンジラガル先生のご要望で、内蒙古大学蒙古学学院の副院長先生と面談した。内蒙古大学は中国の国家重点大学であるが、中でもこの蒙古学学院は、中国のモンゴル学研究の中心であるとともに、内蒙古自治区のモンゴル族やモンゴル文化のよりどころでもあるだろう。事実、学内で蒙古学院のみが、なんとモンゴル語で授業をしているという。 ここでお聞きした話で印象に残ったのが、国際人間学研究科 国際関係学専攻 教授澁谷鎮明(SHIBUYA Shizuaki)名古屋大学大学院文学研究科史学地理学専攻満期退学。博士(地理学)。専門は人文地理学、韓国地域研究であり、韓国を中心とした風水地理思想の展開、日本人作成の近代都市図研究に関心を持つ。近年中部地方のインバウンド観光についても研究を行う。著書に『東アジア風水の未来を読む:東アジアの伝統知識風水の科学化(韓文)』(共著)、『自然と人間の環境史』(共著)、『現代韓国の地理学』(共著)など。【写真1 モンゴル語の看板】

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