GLOCAL Vol.10
9/16

2017 Vol.102017 Vol.107漢族文化としての風水説話研究 ところで、10月の講演は、ブリンジラガル先生の手配で、急遽、包頭市の内蒙古科技大学でもほぼ同内容で講演を行うことになった。その講演の際に、民族文化研究所所長をされている包海青先生とお会いした。 包先生に筆者の研究関心が、ツーリズムだけでなく、東アジアの風水にもあることを告げると、「私もモンゴル族の‘風水’について研究をしたことがある」とおっしゃった。 東アジアの風水研究の中で重要な課題の一つに「風水説話」研究があり、韓国などでも国文学や民俗学からの研究が盛んである。包先生はモンゴル民俗の研究をされているが、モンゴル民俗にどの程度漢文化が入っているのかに関する研究の一環として、漢文化の一つである風水を指標にして、モンゴル説話の研究をされているようであった。 写真5は、包先生に連れて行っていただいたモンゴル寺院である。寺院の責任者は、「山から来た白い象が来て良い泉のある場所を教えてくれた」という寺院の立地に関する伝承を話してくれた。これは恐らくは漢文化としての風水の「脈」の感覚を、白い象というモチーフを用いて表現したものと推察される。 内モンゴルも朝鮮半島も、日本も漢族文化である風水の周辺地域であり、風水説話を通じた比較研究の可能性を感じることができた。 本稿では、内蒙古大学との交流を軸に、筆者自身の専門、関心に引き寄せて内モンゴル地域との交流やその可能性について述べてきたが、おそらくこれ以外にも生態環境研究などの分野などにおいても、本学との学術交流の可能性があるものと考える。 上述のような経緯があったために、講演の論題を「日本におけるインバウンドツーリズムと観光研究の視点」とし、中部地方のインバウンド観光の動向と、日本の近年の観光研究の変容について講演を行った。 昨今の日本におけるインバウンド観光の状況と、日本の観光研究の現況を話したため、やや教科書的な内容となったが、学生も多く聴講するということであったので、適切であったかも知れない。特に日本の観光の新しい動きを端的に示すため、中部圏の産業観光やエコツーリズム、コンテンツツーリズムを紹介し、観光と地域表象の問題などにも触れた。 話題提供としてはおおむね好評であったと思うが、歴史学分野の教員が多かったことから、寺院などの観光地の歴史的妥当性についての議論が多かったように記憶している。また、講演後に女子学生が質問に来たが、その際の彼女の英語の流暢さには舌を巻いた。やはり地域のエリートということなのだろうか。 写真2はその講演の開催を知らせるポスターであるが、報告者の写真がなかった模様で、ネット上にあった、ずいぶんくだけた服装の写真を使われてしまった。【写真2:講演会ポスター】中国の主要な観光目的地としての大草原 今回の交流の中で、ツーリズムに関わったため、ブリンジラガル先生の案内で、内モンゴルの主要な観光資源である大草原地域(写真3)に連れて行っていただいた。 内蒙古大学のある自治区の省都フフホト市の北方は、中国有数の大草原が広がり、さらにその北にある砂漠とともに、内モンゴルの重要な観光資源となっている。現在この大草原では、「大草原ツアー」が行われ、移動式住居として知られるゲルに泊まり、自然環境と馬や羊などのモンゴルの牧畜文化を楽しむ場所となっている。いわばエコツーリズムと民族観光を合わせたような内容である。 この地域の航空路線、高速道路網、新幹線など交通網は急速に整備され、観光地としての地位は高まっていると考えられる。内蒙古旅遊局のネットサイトを見ると「トイレ革命」とあり、都市地域からくる観光客のためにトイレの整備を行い、観光客のストレスをなくしていこうとする努力もある。また写真4のように、観光用に整備され、「移動できないゲル」を持つ宿泊施設が多数作られつつある。 他方、国内的には大観光地であるが、インバウンド観光の側面で見るならば、他地域に比してそれほど人気があるわけではない。またこの地域の大草原ツアーは気温の低い厳しい冬には不可能であり、基本的に夏だけの観光地であり、冬の観光資源が少ないことは大きな特徴であるだろう。【写真4:観光用ゲル】【写真5:包頭市郊外のモンゴル寺院】【写真3:大草原とラクダの群れ】

元のページ  ../index.html#9

このブックを見る