GLOCAL Vol.11
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8愛知県西春日井郡内における旧「字」と現行地区との関係なる範囲においては、旧字名を継承した現行地区がみられたとしても、それらの旧字域と現行地区域との面積の重複はわずかにとどまっていた。この範囲ではしばしば、かつての旧字域からは外れた範囲にある現行地区が、旧字名を継承している形となっていた。さらに同範囲では、旧字域と旧字名を継承した現行地区域とが、全く重複していないこともあった。おわりに 今後は、研究対象地域として西春日井郡旧新川町、および旧山田村を追加し、両町村についても同様の検討を行う。そして、それらの結果を合わせて、西春日井郡において旧「字」と現行地区との間に、広くどのような関係性がみられるのかについて、考察を進めたい。はじめに 本研究では、愛知県西春日井郡旧師勝町および豊山町における、昭和初期を基準とした旧字について、それらの現在までの残存状況を検討した。 旧字の残存状況については、旧字名の現行地区名への継承状況に加えて、旧字の領域と対応する現行地区の領域との比較を重視して判断した。これは、地名の由来やその残存に関する研究は数多く存在する一方で、地名が示す領域の変化に着目した研究はほとんどみられないためである。本研究の具体的な手法 本研究では主な資料として、「土地宝典」を用いた。この「土地宝典」とは、愛知県内においては、昭和初期から中期を中心に市町村ごとに作製された、地図の一種である。 本研究ではまず、旧字名の現行地区名への継承状況をみるために、「土地宝典」や自治体史などを参考にして、昭和初期の時点において存在していた字名を収集し、現行地区名との対応関係を示すデータベースを作成した。 加えて、「土地宝典」を画像データ化し、それを補正した上で、同じく画像データ化した現行1:10,000地形図上に重ね合わせることによって、現行の地図上に旧字の領域を正確に復元した。 そして、復元した旧字の領域と、現行1:10,000地形図に示されており、かつ、旧字名を何らかの形で継承している現行地区との領域について、それらどうしの位置および面積を比較した。なお、旧字域と対応する現行地区域の面積の比較については、両者の面積をそれぞれ画像データをもとに算出した上で、その面積の重複割合の大小を、旧字域の残存状況の評価とした。西春日井郡における旧「字」の残存状況 検討では、昭和初期の時点で既に集落であった範囲において、旧字域とその名称を継承している現行地区域とが、面積からみても高い割合で重複することが明らかとなった(図)。また、集落からは遠く離れており、かつて水田などであった範囲においても、旧字域と現行地区域とが比較的一致する傾向がみられた。 それに対して、かつての集落のすぐ外周と国際人間学研究科 歴史学・地理学専攻 博士前期課程1年坪井宏晃(TSUBOI Hiroaki)1983年愛知県生まれ。中部大学大学院国際人間学研究科(歴史学・地理学専攻)博士前期課程在学中。専門は地理学。現在、愛知県旧西春日井郡を研究対象地域として、引き続き旧字と現行地区との関係性について研究している。図  旧師勝町および豊山町における旧字域の現行地区域との重複状況(1938年測量1:25,000地形図「名古屋北部」「小牧」に加筆)(赤太線は旧師勝村および旧豊山村の各大字の境界線、赤太字は各大字名)

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