GLOCAL Vol.11
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2国際人間学研究科 言語文化専攻 教授塩澤 正(SHIOZAWA Tadashi)イリノイ大学アーバナ・シャンペイン大学院修了。MA(Teaching English as a Second Language)。専門は応用言語学と異文化コミュニケーション。環境と言語習得の関係、留学における言語習得、国際英語論とその教育的応用に関心がある。近著に、『国際英語論で変わる日本の英語教育』(くろしお出版、共編著)、『現代社会と英語』(金星堂、共編著)、『Global Activator』(金星堂、共著)などがある。International Education Week と「国際英語論」大学では、理科系の教員の半数前後は非アメリカ人であり、大規模大学では、留学生は数千人にのぼる。アメリカが国際理解教育を推し進めるのはごく当然の流れと言えよう。肌で感じたInternational Education Week 2016年の11月、筆者はたまたま「Tanaka-Ohio Award」(このInternational Education Weekのイベントの一つ)の受賞の機会に恵まれ、本学の姉妹校であるオハイオ大学で様々なプログラムに参加することができた。日本(特に中部大学との関係)に関するOpen Forum、多民族化する授業の運営に関する教員向けFaculty Workshop、Keynote Speech、Book Reception, Awards Gala、写真展などに参加した。 ちょうどTrump大統領が選挙で勝利した1週間後で、その反動(アメリカ第一主義を掲げるTrumpと多様性と国際理解の重要性を訴える大学との対立)もあり、想像を超える盛り上がりを見せていた。予想を上回る多くの学生やほとんどの教職員は何らかの形でこれらのイベントに関わり、真剣に議論し、パレード(デモに近い)で、その多様性や国際理解の重要性を訴えていた。日本の大学では、大抵そのミッションの一つに国際理解を掲げてはいるが、学生募集や国の政策の要求の一つとしてあるのみで、その本来の意味や重要性を理解し、尊重しているのは、ほんの一部の教員や職員であることが多い。ひどいはじめに 本稿ではアメリカで2000年から始まったInternational Education Week の概要と近年日本でも認知され、理解者も多くなったWorld Englishes(国際英語論)について報告する。この2つは多様性の尊重という意味で同じルーツを持ち、グローバル化する社会でますます重要性を増してくると思われる。互いに非常に密接な関係にあると言える。International Education Week とは  International Education Weekとは、アメリカの国務省(the U.S. Department of State)の中の教育文化局(the Bureau of Education and Cultural Affairs)が中心となり、2000年より実施されている一連の国際理解教育活動であり、11月の第3週目に実施されている。もともと教育文化局のミッションはアメリカ人と他国の人々との間で、友好的で平和な関係を築くために相互理解を育成することである(“to foster mutual understanding between the people of the United States and the people of other countries to promote friendly and peaceful relations”)。ちょうど、日本の外務省が国際交流基金を母体として、様々な奨学金などを提供し、日本人の国際交流を促し、将来の国際的なリーダーを養成しようとしているのとよく似ている。 教育文化局は、アメリカ中の教育機関、世界中の大使館、ビジネス界や地域のリーダーたちに、この一週間の間に様々な国際理解や国際交流に関するイベントを行うように呼びかけている。その中には、海外の文化の紹介、講演、留学プロモーション、国際理解教育分野で活躍した人物の表彰、写真の展示、ワークショップ、世界の料理の提供、パレードなどなど様々な形態があり、それぞれの組織の実情に応じてプログラムを組むことが奨励されている。資金は提供されないが、その資料や方法などは教育文化局が提供し、国をあげてのイベントとなりつつある。アメリカが国際理解教育? すべて重要なことはアメリカ国内で起こり、世界中どこでも英語が通じると勘違いしているなどと、世界から揶揄されているアメリカ人だが、それは教育を十分に受けていないか、留学生や移民などとの接触が少ないアメリカ人にしかあてはまらない。アメリカのリーダーや知識層は、2001年の同時多発テロ以前から、アメリカ国民一般の国際理解不足や孤立主義に危機感を抱き、対策を考えていた。その一つがこのInternational Education Week活動である。もとよりアメリカは日本など比較にならないほど多民族、多言語社会であり、国際理解教育の重要性を身近に感じていた教育者や政治家、企業人らは非常に多い。大学や企業では数十年前から留学生や外国人教員、外国人雇用者なしではその繁栄はありえない状況にある。特に

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