GLOCAL Vol.13
13/16

2018 Vol.132018 Vol.132018 Vol.132018 Vol.1311多変量分析手法を用いたThe Mystery ofEdwin Droodの続編の著者推定 図中サブコーパスラベルの略語は、先頭のNは語りの語彙のデータであること、2つ目のOは原典、Pは続編、MはOMFを示し、3つ目のA~Lは各コーパス内の識別である。 この2つの図は、Dickensの2作品は語彙嗜好の類同性が高く、それらと続編とでは明らかな差異があることを示している。さらにクラスター分析では各サブコーパス間の異同性をある程度比較評価できるが、語彙数100語~1,000語で殆ど同じ結果を得た。また、その1,000語までの分析の中で中核となったと考えられる、頻度上位100語に含まれる語彙は日常的/平易な語であり、作者が意識的に選ぶ語というより、無意識的に用いる語と言えそうである。 以上、 1,000語までの高頻度語を包括的に計量分析して得た客観的根拠に基づき、続編の著者を「Dickensの霊」とするJamesのアピールは疑わしいものと結論づけられる。おわりに 作者の自然な語り口を反映すると思われる高頻度語を分析することで、著者推定は可能と思われるが、作者の文体研究では、作者が意識的に選ぶ語/言い回しも重要なテーマになる。今後研究対象作品を広げるとともに、そのような観点にも注目して研究をすすめていきたい。はじめに 米国人Thomas Power James (以下、James)は、Dickensの遺作となったThe Mystery of Edwin Drood(以下、原典)に続編を加えた「完全版」を1873年に発表し、この続編を「Dickensの霊」による作品とアピールしている。以来、W.H.B.、 George F. Gadd、 Arthur Conan Doyle、 Richard Wolkomir等が批評を加えているが、それがDickensの遺作といえるかどうかについて、確定的な結論は未だ得られていない。本研究は、計量文体分析において文体比較/著者推定に多く用いられている多次元尺度法(MDS)およびクラスター分析により、続編の著者が「Dickensの霊」といえるかどうかを明らかにしようとするものである。研究方法 分析するコーパスは、原典と続編に、やはりDickensの作品で、原典(1870年)と発表時期が近いOur Mutual Friend(1864〜5年;以下、OMF)を参照用に加えた3作品とした。各テクストから発話部を除外した後、規模見合いでそれぞれ4~12のサブコーパスに分け、レマによる語彙頻度を抽出した。さらに、Hooverの先行研究を参考に、1作品に70%以上偏在する語、固有名詞および人称代名詞を除外し、頻度上位50語から1,000語の7種類の語彙データで分析した。分析結果 分析した語彙数によって結果に大きな差異はなかった。以下の2つの図は上位500語の語彙データによるものである。国際人間学研究科 言語文化専攻 博士後期課程1年後藤克己(GOTO Katsumi)1948年生まれ。2010年情報通信系の会社を退職後、第2の人生として英米文学/文化に親しむこととし、2015年4月、本研究科/専攻の前期課程に入学、2018年3月に修了し引き続き後期課程に進学。専攻は(計量)文体論。C. DickensのThe Mystery of Edwin Droodを中心に、関連作品の文体比較、著者推定などについて研究している。Dickensの2作品MDSによる散布図クラスター分析による樹形図続編s

元のページ  ../index.html#13

このブックを見る