GLOCAL Vol.13
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2国際人間学研究科 歴史学・地理学専攻教授林 上(HAYASHI Noboru)1975年名古屋大学大学院文学研究科博士課程修了。『中心地理論研究』で文学博士(名古屋大学)取得。日本都市学会賞受賞。名古屋地理学会会長、港湾経済学会中部部会会長。専門は都市経済地理学。国際人間学研究科における教育・研究「活性化」の取り組みを振り返るに示すように、A〜Dのプログラムが院生の入学から修了までの過程を、通常の教育・研究とは別に側面からサポートするかたちになっている。いうまでもなく、これらのプログラムは当初から綿密な計画や構想があって実現されていったものではない。出発点となる大きな前提は、研究科の現状をできるだけ正しく認識し、問題点があればそれを克服するために、何ができるかを考えることであった。理系の大学院のように大掛かりな実験装置や設備があるわけではない。自由にできる予算も限られており、結局は自前に備わるマンパワーをできる範囲で有効に活かし、文系大学院が得意とする活動につなげていくという戦略である。幸い、本研究科に所属するメンバーは数が多く、専門分野も多岐にわたっている。教員研究発表会にしても、シンポジウムの開催にしても、多彩な内容で展開することができた。 教員研究発表会は年間2回の開催で、毎回2名の同僚研究者から専門的内容が傾聴できる貴重な機会である。普段、研究科委員会などで机を並べ顔は知っている間柄であるが、学問的専門が何かをよくは知らない。そのような同僚教員から聴く話は興味深く、刺激的でさえある。教員が学生に教えるときの教育的雰囲気とは違う一種独特な知的雰囲気が漂い、研究を生業とする職業人の知的好奇心を刺激する。教員研究発表会は年2回の開催で少ないように思われるが、回数を重ねることで自然に得られる知的収穫はけっして小さくない。耳学問を侮ってはいけない。普段はあまり考えない専門外のことであるがゆ白紙のキャンバスに絵を描く 中部大学大学院国際人間学研究科の研究科長として2011年4月から2018年3月までの7年間、研究科における教育・研究の「活性化」のためにいくつかの取り組みを試みてきた。それは、白紙のキャンバスに向かって絵筆をとり、素描から全体像へとイメージの断片をつないでいくような作業だった。未だ完成には程遠いが、この機会に作業過程を振り返り、完成に向けて役立ちそうなヒントを拾い上げることは無意味ではないであろう。 研究科があるべき本来の目的を端的に言えば、それは院生による研究を教員が指導して論文としてまとめ上げ、彼らや彼女らを社会に無事送り出すことである。その過程において、院生への研究指導のために教員自らが研究に励み、その学問的成果を指導に反映させることは、もとより当然なことであろう。しかしこうした通常の教育・研究サイクルのほかに、教員・院生の師弟関係や同一専攻内といういわば狭い枠組みを超えた、より広い場での学問的交流があってもよいのではないか、と考えた。できるならさらに枠を広げ、研究科や大学という縛りにもとらわれない知的交流の機会は設けられないだろうか、とも思った。 そこでまず取り組んだのが、教員研究発表会と院生による研究報告会の年2回の開催である(図1)。教員は專門分野の研究内容を専門外の教員も集まる場において発表する。また院生には、他専攻の院生や教員が集まる研究会において報告することを定例化した。一方、対外的な交流としては、外部の研究者、まちづくり活動家、企業経営者などを招いてシンポジウムや講演会を開催することを提案した。こうしたシンポジウムや講演会は開催することそれ自体に意義があるが、その内容を対外的に発信すれば研究科の社会的意義も高まると考え、「アカデミック広報」と名付けた雑誌GLOCALを年2回発行することにした。同じ内容を研究科のホームページに掲載すれば、本研究科の活動をより広く知ってもらうことができ、あわよくば大学院進学者の確保にもつながるのではないか、という思いもあった。図1:教育・研究活性化のためのプログラム耳学問を侮るなかれ 以上は7年間の結果として積み上げられた活性化のためのプログラムである。図1

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