GLOCAL Vol.13
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2018 Vol.132018 Vol.132018 Vol.132018 Vol.137に相談する、とるものもとりあえず来る、という具合に、来談に至る行動には個性があらわれる。もちろん問題の中身や状況にもよるのだが、来談動機や来談行動には、その時々のその人が、自分自身(の人生)をどう生きようとしているかが反映されていると言える。 悩むことや相談することを恥ずかしいとか情けないとか感じる人も多いが、前述したように、他者に相談することは実は依存ではなくて自立への方策の一つだと考えられる。 そうした心の作業をお手伝いする支援者の側も、単に悩みを解決するとか問題行動を改善するという表面的なことだけを目標にしてお会いしたのでは、心の専門家として十分とは言えない。マイナス部分(悩みや症状など)を減らす修復(治療)モデルだけではなく、マイナス部分をどこかに持ちつつもプラス部分(その人なりの適応力や健康さ)を活かしていけるような発達促進モデルに立って支援の計画をたてる必要がある。クライエントの主体性を大切にするというのはそういうことであろう。ただし、言うは易し、行うは難し、なので気を引き締めてかからないといけない。 本学でも公認心理師養成に取り組み始めたところである。「あてになる公認心理師」を輩出して地域に貢献できるようにしていきたい。参考文献森田美弥子(2004)青年期における「相談する」行動の意味.名古屋大学大学院教育発達科学研究科紀要(心理発達科学)50巻森田美弥子・川瀬正裕・金井篤子編(2009)21世紀の心理臨床.ナカニシヤ出版森田美弥子・金子一史編著(2013)心の専門家養成講座1(臨床心理学実践の基礎その1).ナカニシヤ出版森田美弥子(2017)臨床心理学で何がしたいのか−リサーチ・クェスチョン探訪.名古屋大学大学院教育発達科学研究科紀要(心理発達科学)64巻鶴田和美編(2001)学生のための心理相談.培風館し作戦を繰り広げる、「依存するための来談」を継続する人もいることを知った。何を求めているのだろうか? 心理支援の仕事の中で体験した素朴な疑問をもとに、私が着目したのは、クライエント自身の「来談動機」である。過去の担当事例の記録をもとに、心理相談に何を望んでいるのか、初回面接で語られた言葉をもとに集計分類してみたところ、大きくは以下の3パターンが見られた。 (1)「教えてほしい」:情報収集や具体助言を求めての来談(ガイダンス期待)。 (2)「自分を振り返りたい。語りたい」:自己確認あるいは内面探求のニーズにもとづく来談(カウンセリング期待)。 (3)「どうしたらよいかわからない」:何に困っているのか自分でもよくわからないほど混乱した状況にあり、その解消を求めての来談。(ケアサポート期待) 精神科病院では(3)が多くを占める。大学付属心理相談室(学相とは異なり、地域住民を対象とした外来の有料相談室)は(1)(2)が主である。学生相談室では(1)から(3)まで幅広く様々な相談がある。そこで学生相談での担当事例についてさらに詳しく検討してみた。来談動機の構成要素 「相談に何を求めるか」(3種の相談期待)に加えて、「何に困って来談したか」(相談内容)、及び「どういう時期に来談したか」(来談時期)の組合せで「来談動機」をとらえることとした(図1参照)。そこでわかってきたのは次のようなことであった。面接経過来談動機相談内容相談期待来談時期帰結期間相談準備性相談イメージ図1:「来談動機」の概念図 同じ相談内容でも、来談時期(年齢や発達段階)によって持ち込まれやすい内容とそうでない内容とがある。再度、不登校を例にあげるならば、小学生の不登校と大学生の不登校とでは顕在化したきっかけも、背景にある課題も異なることは容易に想像できるだろう。年齢相応の悩みや問題は、誰しもがその時期に大なり小なり直面する心理的発達課題である。それに取り組むことは人生そのものである。他方、年齢と一致しない場合は、より深刻な問題と言わざるを得ない。 相談期待は、その人のそれまでの環境や経験の影響を受けて形成される。特に対人関係の中で培われた、相談することに対するイメージや考え方が反映される。つまり、他者への信頼感や、コミュニケーションへの開放性などが関係してくると推測される。相談することには、「信頼」や「安心」などの肯定的なイメージと「不信」や「抵抗」などの否定的なイメージとが含まれる。 肯定イメージが強い人は日頃の対人関係も積極的で、来談への敷居は低い。ただ、その中には何度も来談を繰り返す人もいるようだ。他方、肯定とも否定とも決めかねている人たちは、困ってもすぐには来談せず、機が熟した時に満を持してやってくる印象がある。 中学生、高校生、大学生を対象に調査をしたところ、高校生以降の年代になると、「相談も一つの交流」であり、「興味深い」といった、少し距離をおいた肯定イメージが生じてくることがわかった。 相談内容と来談時期、そして相談期待との組合せで来談動機をとらえることにより、発達や状況に見合った、比較的健康度の高い相談なのか、それとも病理的な側面を含んだ悩み方をしているのか、といったアセスメントが可能となり、その後の面接経過(どれくらいかかりそうか、順調に進めることが可能か、など)の予測をたてることができる。悩むことには意義がある 気軽に気楽に相談する、迷いに迷った挙句

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