GLOCAL_Vol16
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8言語学習環境が留学後の言語維持に与える影響この相関がどのように変化するのか特に注目していきたい。引用文献Byram, M., & Feng, A. (2006). Living and studying abroad. Clevedon [England]: Multilingual Matters Ltd.Freed, B. (1995). Second language acquisition in a study abroad context. Amsterdam: J. Benjamins. 語学留学プログラムは、その目標言語との接触、言語使用の機会、動機付け、環境の変化などにより言語学習や言語習得に多大な影響があることが知られている(Byram and Feng 2006, Freed 1995)。しかし、多くの先行研究はプログラム終了までが対象期間であり、留学参加者が帰国後に再び元の環境に戻ると言語力がどのように変化するかについての研究はほとんど見当たらない。本研究は、留学参加者の帰国後の言語学習の変化とその要因を調査するものである。本報告はその一部である。 被験者は、2019年8月~12月までアメリカのオハイオ大学での「長期海外研修」プログラムに参加した中部大学英語英米文化学科の2年生である。データ収集は主に3つの方法で、3回に分けて実施する。すでに、1回のデータ収集は本年7月末から8月初に行った。2回目は12月と来年1月に行う予定である。3回目は2020年の4月と5月頃に行う。留学の直前、直後、そして再び元の環境に慣れた帰国数か月後の3つのポイントでデータ収集し、被験者の留学中の英語力の伸長と帰国後の言語維持・喪失、その原因について探りたいと考えている。 データ収集方法の1つは質問紙調査である。それはさらに英語学習プロファイルと英語学習環境調査の2つの質問項目群に分かれている。英語学習プロファイルは被験者が日常生活の中でどの程度英語を学習し、英語と接触する機会を設けているかを調査するものである。もう1つの英語学習環境に関するアンケートは、被験者の英語学習と環境に関するものである。特に日米での授業外での英語接触と学習環境に焦点を当てて調査する。 2つ目のデータは、被験者の留学前後のスピーキング能力判定テストとして、英検2級用のインタビュー問題の結果を利用する。英検と同じ判定基準で評価すると同時に、録音したスピーキングデータを使用し、流暢さの指標として1分間の単語数(word per minute: w /m)も計る。 3つ目のデータは日本語によるインタビューで収集する。帰国後の日本における英語との接触や動機づけについて、より深く細かな情報を収集する。対象者は、留学した35名の内の15名である。TOEICのスコアを基準に上位群、中位群、下位群からそれぞれ5名を選出した。 本稿では、35名の出発前のスピーキングカと流暢さの結果、それにそれらの相関について報告したい。これが出発前の英語力の基準となり、今後、彼らが帰国した後の同様の試験結果と、その相関を測る予定である。 まず、英検問題を利用したスピーキングテストでは、30点満点で、最高が24点であり、最低が10点であった。平均すると17点である。意味のない相槌を抜け、1分間の単語数より計算した流暢さは、最大が89.5 w/mであり、最小が17.8 w/mであった。平均すると52 w/mである。 スピーキングテストとTOEICスコアの分布は右の図のようである。その関係は全て正の相関があった。英検とTOEICの相関係数はやや強い0.66であり、英検と流暢さの相関係数もやや強い0.59だが、流暢さとTOEICの相関係数は弱い0.31である。TOEICと流暢さとの相関係数が低いのは予想通りだが、筆者が行った英検利用の面接結果とTOEICのやや強い相関係数が予想外であった。 今後2回目と3回目のデータ収集により、国際人間学研究科 言語文化専攻 博士前期課程1年マーティネリ・アダム Adam Martinelli2015年に言語学専攻と日本語副専攻でオハイオ大学を卒業し、JETプログラムに就職し、3年間徳島県嗚門市で小学校と中学校で英語を教えた後、20l9年に山田和夫特別奨学生として中部大学大学院に入学した。現在、国際人間学研究科の言語文化専攻の一年生である。s図1 スピーキングとTOEICの相関図2 スピーキングと流暢さの相関図3 流暢さとTOEICの相関

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