GLOCAL_Vol16
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2020 Vol.162020 Vol.162020 Vol.162020 Vol.1611講演会「無形文化遺産と地域づくり」を開催た研究が進行中で、近日中にその成果がセンターのWEB上で公表されるとのことである。 最後に、持続可能性に伴うべき「共生」(21世紀の教育及び学習を提言する「ドロール報告書」が提言する「教育に関する4本柱」のうち最も注目されるもの)の概念について、岩本氏独自の解釈が図3を使って展開された。先ず、共生を空間軸で捉えて、阿倍仲麻呂が「天の原ふりさけみれば春日なる三笠の山にいでし月かも」と唐で月を見ながら、故郷を懐かしんで詠んだ歌を引き合いに、存在する空間は異なっても「精神的な共生」をはかることが可能であるとする。また、時間軸で捉えて、古今集の詠み人知らずの「五月待つ花橘の香をかげば昔の人の袖の香ぞする」を引き合いに、同じ場所での時間を超えた「精神的な共生」をはかることも可能であるとする。 教育で言えば、空間軸を通じた共生こそがglobal citizenship educationと呼ばれるものであり、国境を超えてみんなが仲良くなっていくことが大事なのだという考えの教育となる。一方、時間軸を通じた共生は、まさにESD そのものであり、将来の人のことを考えて今努力することが大切であるという考えの教育の基となる。そして、岩本氏は、これを「文化」で考えるならば、文化遺産は時間を超えて継承されるものであり、空間が異なっても共感し、尊重し合えるべきものであるということになる、との言葉で講演を結んだ。 続く質疑応答では、高齢化社会での無形文化遺産保護のポイントについてや、どうやったら長良川の鵜飼を無形文化遺産に登録できるか、また、文化財の有形と無形の不可分性についてなどの質問があり、大変興味深い議論が交わされた。 (柳谷啓子) 2020年1月29日(水)に、中部大学国際人間学研究所主催、国際人間学研究科・国際関係学部・人文学部共催で、岩本渉客員教授による講演会「無形文化遺産と地域づくり」が開催された。現在、国際人間学研究所で「持続可能な観光」というテーマの下で、東濃地域の地芝居の調査研究などを含むプロジェクトを進めているため、独立行政法人国立文化財機構アジア太平洋無形文化遺産研究センター所長や日本ESD学会理事評議員を務める岩本氏に、特に「無形文化遺産と地域の持続可能な開発」の関係に焦点を当ててご講演いただいた。 講演では先ず、「持続可能な開発」(自分たちの子供や孫、あるいは顔を合わせることもない100年後の人たちに、より良い地球、より良い社会を引き渡すための世代間努力)と、「SDGsと文化の関係」に言及する宣言の導入部やターゲット4.7、11.4についての解説があった。 次いで、無形文化遺産についてのユネスコの立場として、有形文化遺産とは異なり「真正性」は重視されず(ただし、変化させるのが誰かが問題)、また「顕著な普遍的価値」ではなく、当事者らにとって価値があるという相対的な価値判断を行うことが紹介された。ただし、当事者らにとってのその価値を国が認めて法的に保護していることが登録の条件となるという。 基本概念の解説の後は、豊富な事例を通して無形文化遺産が地域とどのような関わりがあるのかが語られた。例えば、ガムラン音楽やワヤン人形劇の保護に、識字教育、技術訓練、起業促進などを組み入れたインドネシアの取り組み、イモギリにおけるバティック工芸の復活を通した地域の震災復興の取り組み、フィリピンのイフガオ族の歌「ハドハド」を「誇るべき生きた伝統」として教え、これを新しい世代に伝承するために新しい学校を各地に設立した事例などが取り上げられた。いずれも、無形文化遺産が地域の結束の要となる「誇り」として機能するよう、教育を通して文化遺産の保護とともに地域づくりを行なっている好例である。 続いて岩本氏が所長を務める「アジア太平洋無形文化遺産研究センター(IRCI)」の活動紹介があった。IRCIは、主にユネスコの「無形文化遺産の保護に関する条約」の方針に沿って、無形文化遺産の研究の充実を使命とする機関であり、2018年度からは、「無形文化遺産の持続可能な開発への貢献に関する複合領域的研究:教育を題材として」と題するプロジェクトを実施しているという。これは、教育に対してどのように文化が貢献しているかの調査研究であり、無形文化遺産の教育は、後継者の育成にとどまらず、無形文化遺産を通して、普通の子ども、普通の人に自分たちのコミニティーを知って自分たちのアイデンディディを考えさせる教育であるという認識に立脚するという。フィリピンやベトナムを対象とし図1. 会場風景図2. 岩本渉氏図3. 共生と文化(当日のスライドより)

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