GLOCAL_Vol16
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4アフリカ地方バムン王国の民族儀礼―生活地平・民族・国家・地球規模交流を生き抜く本的に一生に1~2度わが身を賭けて執行できる。バムン民族や王権に貢献を成した者が、血縁者でなくともンジ王子格に任じられる。52名の王子タイトル保持者が誕生した。各人がいかなる理由で王子に成りえたかを王宮前広場の何千人と集まる都市儀礼の場で、公表され栄誉を手にする。イスラーム世界での貢献を理由にンジとなった者は、いない。バムン民族人口の6割をモスレムが占め、今回新ンジに任じられたモスレムも多いのに、である。それは何故か。イスラーム化の伝播過程―調査方法とともに 現在、バムン王は、イスラーム王スルタンである。19世紀末ころサハラを超えて、今のカメルーン北中部まで、イスラームが入ってきた。バムン・イスラームの源泉を調査した。イスラーム教師ムワリム(ウラマー)に、師が誰かを聞く。その師の所に行き、師の師が誰か聞く。すると起源では、バムン大ムワリム全員が他民族ハウサから教示を得ていた。バムン王権は、イスラーム宗教知識を必要とし、他民族ハウサを宗教大臣に今日まで任用し続けている。バムン民族は、他民族によって支えられているのである。バムン王権にとって、イスラーム生活に関しては、宗教権威の階層性からフンバン中央モスクが指示系統の最高位に立つ。この最高権威をさらに指導する地位が、イスラーム王スルタンである。全てのイスラーム生活に、バムン王=スルタンの権威が届く。したがって、バムン王権が注意を払う必要があるのは、イスラーム以外の事績に対して、である。こうして、1 民族集団の維持方法 ―民族王権の成立 18~19世紀、アフリカ・カメルーンのアダマワ高地には多くのチーフダムchiefdom 首長領があった。この首長領が他の首長領と接触交流し、時に戦争となり時に協定を結んで、より大きな版図をもち中に多くの旧首長領を抱える大きな首長領統合体ができていった。これがキングダムkingdom王国である。こうして、今のカメルーン西部州に、バムン王国が誕生した。約200年の歴史がある。第10代ブオンブオ王と第17代ジョエア王は、広い版図を求めて遠征を多くの首長領に仕掛けていった。こうして、現代のバムン王国が成立し、1964年フランス植民地からのカメルーン独立後は、バムン県になっていった。2 埒外の内在化・周辺の中心化 ―被征服民の中心登用、 王子格Njiタイトルの授与 19世紀の中頃から末、第17代ジョエア王の時代に、王都フンバンから見て南100キロの地にあったマンシャ首長領の民は、金属技術を持っていた。王国に取り込まれて、王都フンバンの中心・王宮のすぐそばジンカ街区、つまり王の直近に居所を与えられる栄誉を得た。金属細工の職人集団は軍事に繋がりやすく重要視された。さらに、ジンカ職人集団の親族長は、ンジ王子のタイトルを与えられた。それから今日まで2世代くだって、傍系へ広がり多くの親族成員を抱える大職人グループとなった。そして、各人が親方となって、多くの徒弟を抱えるまでに成長した。 ここで、重要となるのが、親方―徒弟の関係である。親方は、国際販売から国内販売、鋳造技術の弟子指導と3階級に分かれている。ジンカ街区のンジコモ親族集団の中枢部が親方の上層を占めている。そして、それぞれの親方に、徒弟がついて習う。この時、徒弟たちは、全員が普通のバムン臣民である。つまり、被征服起源をもつ集団がより上位の階層を占め、征服者側に元々いた「普通の」バムン民衆が、被支配層から支配されるのである。こうして、とかく下層に位置付けられてしまう被征服起源をもつ元他民族が、より上位の支配的な役割を担っていく。物理的かつ心理的な平衡が生み出される。差別の超克がある。旧首長領の尊厳が保たれ、そうであるが故に、余計にバムン民族になりきる志向が増す。この集団の長は、王子格のンジ・タイトル保持者に任じられ、王と直接接触が可能な特権的立場についた。つまり、旧被征服首長領の者たちが、王権の中枢に位置づけられ、地位の逆転・平準化が起こる。こうした政治デバイスが中に込められるからこそ、王権という集中権力化を根幹としどこか「いびつな」暴力政治装置が生き続けられるのである。3 王子タイトル叙勲儀礼の 政治性―民族内外に 浸透する「生きる意志」 王子格タイトルのンジ授与儀礼を、王は基国際人間学研究科 国際関係学専攻 教授和崎 春日(WAZAKI Haruka)1949年生。慶應義塾大学博士(社会学)。神奈川大学、日本女子大学、名古屋大学各教授を経て、現職。1973年以来、アフリカに約28回訪問し、計7年間のアフリカ生活経験を持つ。特にカメルーンには、6年間、バムン民族の村と町で生活し、日米欧では唯一のバムン語話者であり、バムン語フランス語日本語対応グロッサリーを編纂中。アフリカと日本の都市人類学を専門とする。前日本アフリカ学会副会長。

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