GLOCAL Vol.18
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2021 Vol.182021 Vol.1811環境問題と江戸の循環型社会国際人間学研究科 言語文化専攻 博士後期課程1年池田 聡(IKEDA Satoshi)1977年生まれ。専門は環境教育、環境保全管理学など。勤務している芦屋大学では自然環境に特化した科目以外にも自然環境から考える観光学や環境問題と企業との結びつきについて環境経営学、概論といった経営学に関する科目を担当している。中部大学大学院では、江戸時代の循環型社会に着目し、現代と江戸時代の環境問題について研究している。s病中」では、「我相果の後摺糠の灰迄もふたつに分けてとるべし」とある。これは、遺産相続の際、家の家財道具等をすべて分割し相続の対象とするだけではなく、摺糠の灰まで燃やして分けて相続せよと解釈する事ができ、当時の人々は灰が遺産相続の対象となる財産や資産であったと考えるのが妥当である。おわりに 「灰」をキーワードで文献調査した結果『めざまし草』に「紹益は灰屋と号す富豪なり。吉野は紹益に先立ちて死す。都をば花なき里となしにけり吉野を死出の山にうつして紹益これその時述懐の歌なり。」とあり、「灰屋紹益」の吉野太夫との逸話を確認する事ができている。紹益は「好色一代男」のモデルとなったとも言われる人物で、江戸時代前期に紺灰業で巨万の富を得た京の上層町衆を代表する豪商であることは周知のとおりであるが、その生業についての詳細や一族との関連性はあまり知られていない。今後の課題としてこれらを明確にすることを中心に当時の循環型社会についての研究をすすめる。参考文献大江戸省エネ事情:石川英輔,講談社文庫,2009三田村鴛魚全集第六巻:三田村鴛魚,中央公論社,1975随筆大成第一期1:吉川圭三,吉川弘文館,1977随筆大成第一期2:吉川圭三,吉川弘文館,1977随筆大成第三期2:吉川圭三,吉川弘文館,1976はじめに 地球環境の変動には、自然的起因(地球自らが何かしらの影響を与える。人間以外の個々の生命体が影響を与える。)と人為的起因(人間が直接及び間接的に地球環境へ影響を与える。)の2種類があると考えられる。 人為的起因から考えると産業革命以降、我々は便利で快適な、人間にとって都合の良い社会を構築していった。これは、それまでの人間社会から考えれば飛躍的な進歩であるといえる。しかし、昨今問題となっている温暖化や砂漠化などの多様な環境問題は、上述した産業革命以降に浮き彫りとなってきた、我々に直接ないし間接的に影響がある問題でもある。 本論では、現在とは異なり、循環型社会が構築できていた江戸時代に焦点を絞り、衣類における最終形態とも呼べる「灰」に注目し、人為的起因からの視点で論じている。循環型社会としての江戸時代 現在を生きる我々の生活は多くの化石燃料を消費して社会が回転しているが、江戸時代には現在の主要なエネルギーの使用はわずかであり、消費0キロカロリーに近い循環型社会を実現できていた。この背景には、①当時の鎖国政策による他国との交流及び交易の少なさによる物の流通不足と価値の高騰、②倹約令(享保の改革・寛政の改革・天保の改革等)にみられる江戸幕府の政綱及び徳川氏の家訓、③幕府の意向を受けた諸藩、庶民の意識が大きく影響した結果として、現代の我々が目指すべき循環型社会が実現できていたのではないだろうか。古着 前述したように、江戸時代は現代と比べ他国との交流及び交易が圧倒的に少ないため、物の流通不足による価値の高騰が顕著である。このため、新しい物を常に交流できるのは一部の限られた人のみであり、一般の人々は新しく物を購入する事は難しかったと考えるのが妥当であろう。衣類に注目しても上述の事例は該当する。新着の反物を購入しそれを仕立てて真新しい衣類を身に着ける事が出来たのはある一定の階層の人々だけであった。庶民は古着を購入し、それを使えなくなるまで利用し、子どもの服として仕立て直し、さらに雑巾やおむつなどに再利用する。最後にその衣類を灰にして、灰買いと呼ばれた業者に売却した。売られた灰は、紺灰・紺染・肥料などに使用されたのである。 この衣類サイクルは当時の循環型社会を象徴する一つのモデルケースとして捉えることができるが、ここで問題となるのが、はたして灰が財産や資産として位置づけられていたのかという点である。 井原西鶴の『西鶴諸国はなし』巻二「雷の

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