GLOCAL Vol.18
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2021Vol.182021Vol.185かを知る意味で注目に値する。さらに興味深いのはこの尺度は他者軽視というよりも逆から尋ねた他者尊重の項目が多いことである。例えば「友達の中にはよく気がつく人が多いです」という他者尊重の見方を否定することが他者軽視、仮想的有能感が高いこととみなされる。そしてその尺度を小学1年生から6年生までに適用したところ、男女とも5、6年生で高くなっていた。つまり、小学校高学年頃から若者のもつ仮想的有能感が形成されると考えられる。 一方、大学生の仮想的有能感、自尊感情の変化を縦断的にとらえようとする試みもなされている。小平(2019)は2014年度に入学した学生200名を対象に毎年調査を実施した。しかし、大学4年間を見る限り、大きな変化はみられなかった。就職後の2年間も追跡されているが、この結果はまだ出ていない。しかし、これまでの横断的研究では職業人になると仮想的有能感は減少し、自尊感情が増大すると予想される。そのような結果がみられるかが注目される。有能感タイプの10年の変化とその意味 上述の発表論文等、この10年間に学会誌に掲載されたり学会発表された論文を基に、大学生の仮想的有能感および自尊感情の高さを2010年以前のデータと比較したものが図1および図2である。縦軸は仮想的有能感および自尊感情の高さ、横軸は2000年以降の年代である。大まかな傾向として仮想的有能感も自尊感情も右肩下がりで両方とも減少傾向にあることがわかる。これは有能感タイか。しかし、最近の若者はわが国の経済状況の悪化や情報化社会の中であまりに多くの困難な現実を直接知ることで自己実現を求めず、それを初めから諦め、夢を追うことよりも現実を直視し何とか他人に迷惑をかけないようにお金を大切にして生きていくことに主眼をおいているのではなかろうか。 しかし、仮想的有能感が他者軽視から生じていることから考えると他者軽視の減少は他者尊重の増大で、他者尊重ができるようになることは人間として一つの成長と考えられる。藤本(2015)は現代の若者について「ゆとり」「さとり」に続く「つくし世代」であるとして、現代の若者は自分一人でなく誰かのために行動する、だがそれは道徳観や社会性に基づくのではなく、単にその方が自分もハッピーだからとしている。それは他者尊重と同一なのであろうか。 しかし、仮想的有能感の減少をこの他者尊重の増大と捉えたとしても問題なのは自尊感情も減少傾向にあることである。つまり、その他者尊重は自分への自信を伴ったものではない。自分に自信が持てないので相手と対峙することを避けるために他者尊重をする、つまり、相手につくしているとしても、その他者尊重はやや表面的なもののように思われる。自尊感情を育てることこそ最も大切といえよう。引用文献小平英志(2019) 青年期中後期における他者軽視の発達的意義とその脱却の諸条件―4年間の縦断調査による検討― 教育心理学研究藤本耕平(2015) つくし世代 光文社新書吉田哲也・矢野佳奈(2014) 小学生における他者軽視の発達的検討の試み 日本教育心理学会第56回総会発表論文集プでいえば、委縮型が増大していると推測できる。 次に日本の13歳から29歳までの男女および諸外国のほぼ同数の若者を対象に実施された「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査(平成30年度)」報告書では次のようなことが指摘されている。まず、第一は日本の若者は、諸外国の若者に比べて、自分自身に満足しておらず、自分に長所があると感じている者の割合が最も低く、しかも平成25年度より減少していた。第二に悩みや心配事では「お金のこと」が最も高く、次に「仕事のこと」であり、逆に最も低かったのは意外にも「友人や仲間のこと」であった。「進学のこと」「勉強のこと」は平成25年度よりも低下していた。第三に日本の若者は、諸外国の若者に比べて、政治に対する関心度が最も低く、平成25年度の調査時よりもさらに低下していた。 ところで、2010年代には若者に対して「ゆとり世代」から「さとり世代」へというような言い方もされた。「さとり世代」とはプチ消費、省エネ、コスパ重視、結婚・恋愛願望の低下、仕事に自己実現を求めないというようなことを特徴とする。この傾向は先の内閣府の調査結果と広い意味で同じ直線上にあり、仮想的有能感が減少気味で、委縮型が増加しているのではないかという推測を支持する方向にあるような結果といえる。つまり、これまでの若者たちはそれなりの理想や目標に向かって背伸びしようとするのが常であった。しかし、理想は簡単に叶うものではなく、精神的な葛藤と対峙せざるをえなかった。その自己防衛の一つのかたちが他者軽視して仮想的有能感を持つことであったのではない図1 仮想的有能感の2010年以前と以降図2 自尊感情の2010年以前と以降

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