GLOCAL_Vol20
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2国際人間学研究科 言語文化専攻 教授塩澤 正(SHIOZAWA Tadashi)イリノイ大学アーバナ・シャンペイン大学院修了。MA(Teaching English as a Second Language)。京都大学大学院人間環境学研究科博士課程満期退学。博士(人間環境学)。環境と言語習得の関係、国際英語論とその教育的応用に関心がある。近著に『国際英語論で変わる日本の英語教育』(くろしお出版、共編著)、『現代社会と英語』(金星堂、共編著)、『Global Activator』(金星堂、共著)などがある。新型コロナウイルス対応にみるアメリカ人的志向*-コロナ禍にアメリカで生活して-めに背景を含めて自顔のビデオ撮影を要求された。日本はアメリカと比較するとコロナ陽性者数では総計で約1/32である(2022/1/1時点で合計数で日本が173万人、アメリカが5,610万人)が、日本の方がはるかに厳しい。この対応の差は、真面目で形式を重要視する日本人と現実的で自由志向が強いアメリカ人の志向が関係しているのではないだろうか。予防接種にみる「弛緩文化」 すでに2021年4月時点で、アセンズ市では成人の多くが予防接種を終えていた。ただ、私のような外国人はその対象外かと考えていた。ところが、確認するとアメリカ市民かどうか、保険の有無などとは全く関係なく、アメリカに在住する者は不法滞在者でも無料で接種できるという。整理券などは必要ない。ワクチン接種会場は町のどこにでもある薬局はじめに 筆者は本学のサバティカル制度を利用し、2021年4月から9月にかけて約半年間、コロナ禍の米国アセンズ市のオハイオ大学に滞在した。本小論はコロナ禍であるがゆえに浮き彫りになったアメリカ人の文化的志向に関する観察記録である。コロナ対応や人々の反応で、はっきり見えたアメリカ人の志向、特に「弛緩志向」「自由志向」「主張志向」に関して、アセンズ市民の生活や学内の様子などを例にして報告する。日米の典型的な志向 まず、日米の典型的な志向について簡単に触れておきたい。これらはもちろんあくまで「傾向」であり、一般化は禁物であるが、日本人とアメリカ人の価値観は以下のような志向に代表されるのではないだろうか。以下がよく取り上げられる日米の志向例である(松本 2014)。日本人の志向例  アメリカ人の志向例「調和志向」 ⇔ 「主張志向」「集団志向」 ⇔ 「個人志向」「謙遜志向」 ⇔ 「対等志向」「緊張志向」 ⇔ 「弛緩志向」「形式志向」 ⇔ 「自由志向」 目立つことを避ける日本人と異なることが評価されるアメリカ社会、トイレまで一緒に行こうとする日本人と生まれたときから自分の部屋を持つアメリカ人、真面目さが評価される日本社会と常にユーモアたっぷりの映画の中のアメリカ人ヒーローたちなどは、日米の対局的な志向の表れである。このような志向が今回の新型コロナウイルスに対する対応に本当によく表れたと滞在中に実感した。自己隔離にみる「自由・弛緩志向」 まず、出発前から時間を追っていく。オハイオ大学からビザ取得のために必要なDS-2019という書類が手元に届いたのは2月に入ってからであった。予想はしていたものの「弛緩志向」の強いアメリカ人の悠長な仕事ぶりに悩まされた。何度か丁寧に急かせてやっと手に入れた。 アメリカ到着後、国内線への乗り継ぎが拒否されることも覚悟していたが、何の問題もなくオハイオ州のコロンバス空港までたどり着いた。入国時にはPCR検査や陰性証明の提示が要求されることを予想していたが、それもなかった。しかも、空港から大学までは公共交通機関を使ってもいいという。 アセンズ市に到着し、いよいよ10日間の自主隔離である。電話や保健所職員の訪問などがあることを予想していたが、何日たっても確認の電話一本ない。監視のほとんどない10日間の気抜けした、まさに「自主隔離」生活を過ごした。この時点でアメリカ人の「自由・個人・弛緩志向」を確信した。 半年後に日本に帰国したが、その折は、図1のように携帯電話に2つのアプリの導入が求められ、毎日、不特定時間に位置確認のた図1 日本のコロナ対策用位置情報確認アプリ

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