GLOCAL_Vol20
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6談話習得の研究に活用することを目的として収集されたものである。12言語の母語話者のデータの日本語データが公開されており、多くの用例を確認することができる。現在の進捗状況 現在、I-JASから各言語母語話者による助詞「に」と「で」の使用例を取り出し、使用数と誤用数を数え、それぞれの特徴について調査中である。先行研究の指摘から、助詞の誤用だけでなく、助詞の直前の名詞や後続する動詞の種類も分析対象とする。これまでに母語が韓国語、中国語、英語、ロシア語の中級学習者データから誤用を含む文を取り出し整理した。学習者の母語別に特徴があるのかどうか調べ、量的および質的な分析をおこなう予定である。引用文献迫田久美子(2001)「学習者の誤用を生み出す言語処理のストラテジー(1)̶場所を表す『に』と『で』の場合̶」『広島大学教育学部日本語教育学講座紀要』11号,pp17-19蓮池いずみ(2012)「日本語の空間表現『に』と『で』の選択にみられる母語の影響-助詞選択テストの結果分析-」『言葉と文化』13巻,pp59-76『多言語母語の日本語学習者横断コーパス(I-JAS)』,国立国語研究所  http://lsaj.ninjal.ac.jp/(2021年12月1日)研究目的 本研究は、日本語を母語としない日本語学習者を対象に、格助詞の「に」と「で」の使い方について、考察するものである。用法として、「に」は存在の場所を表し、「で」は動作や出来事の場所を表すものである。このように、どちらも場所を表す性質を持つため、なかなか習得につながらず、多くの誤用例が報告されている。この誤用を減らすために、なぜ誤用が生まれるのか、どのように指導すればよいのかを明らかにすることが研究目的である。先行研究 「に」と「で」の第二言語としての習得研究の代表的な先行研究として、迫田(2001)と蓮池(2012)があげられる。迫田(2001)は、助詞の選択形式の穴埋めテストを行った結果から、「に」と「で」の誤用の原因として、学習者は助詞の直前の名詞から「位置を示す名詞+に」「地名や建物を示す名詞+で」の固まりを形成し、後続の動詞を考慮することなく助詞を選択しているのではないかと考えた。調査の結果、助詞「に」と「で」では、学習者は「地名+で」「位置+に」の正答率に比べ、「地名+に」「位置+で」の正答率が低かったと報告している。 一方、蓮池(2012)では、学習者の助詞の選択傾向を調査するため、中国、英語、韓国母語話者の学習者97人に助詞の穴埋め式テストを行った。その結果、学習者は母語の影響を受けることがわかった。例として韓国語では「に」と「で」に、ほぼ置き換えができるとがあり、置き換えができる問題の正答率が高くなっており、正の転移が表れたと報告した。研究課題 本研究で明らかにする課題として、1つ目は、日本語学習者の助詞「に」と「で」の使い分けに、学習者独自の文法形成が見られるかを調査することである。迫田(2001)では学習者による独自の文法形成が見られたと指摘しているが、蓮池(2012)では結果に表れることがなかったため、さらに調査する必要があると考える。2つ目に、母語の影響についてである。迫田(2001)と蓮池(2012)で見られた3言語を母語とする学習者だけでなく、他の学習者でも母語による差が見られず、同じ結果になるのか調べたい。そして3つ目に、学習レベルが変化しても同じ結果になるのかという点を調べることである。中級と上級レベルを対象として分析し、迫田(2001)の中級レベルの結果と比較したい。対象データ 本研究のデータは、日本語学習者コーパス『多言語母語の日本語学習者横断コーパス(International Corpus of Japanese as a Second Language,以下I-JAS)』を使用する。「I-JAS」は、日本語学習者の文法習得、日本語学習者の誤用分析-場所を表す「に」と「で」の場合-国際人間学研究科 言語文化専攻 博士前期課程1年老川 恭平(OIKAWA Kyohei)1998年静岡県浜松市生まれ。2021年に中部大学人文学部日本語日本文化学科を卒業後、大学院に進学。専門は日本語教育学。現在、日本語を第二言語とする日本語学習者を対象に助詞の誤用について研究している。

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