GLOCAL Vol.21
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2国際人間学研究科 国際関係学専攻 准教授于 小薇(YU Xiaowei)名古屋大学大学院教育学研究科教育学専攻博士後期課程単位取得満期退学。専門分野は教育社会学。中国の一人っ子政策による若年人口の減少と教育との関わりについて研究している。2018年10月から約5ヶ月間、本学特別研修制度を利用して一人っ子政策に関する一次資料を分析。共著『変容する中華世界の教育とアイデンティティ』。中国における一人っ子政策の登場と撤廃―教育学的視点からの研究―二次ベビーブーム世代の人々は2022年から高齢者になりつつあり、今後中国の人口高齢化はより速いスピードで発展していくと予測される。 人口高齢化が加速している一方、経済成長を支える若い働き手が減り始めている。そこで、中国共産党は2013年11月に開催した共産党第18期3中全会で30年余り続けてきた人口抑制の「一人っ子政策」の緩和を打ち出した。さらに、2015年10月29日に同5中全会で二人っ子政策への転換が決定された。その6年後、2021年5月31日、中国共産党は政治局会議で1組の夫婦に3人目の出産を認める方針を示した。政策転換と家庭教育 中国では1980年代に生まれた者を「八〇後」と呼ぶ。「八〇後」は、改革開放政策と「一人っ子政策」のまっただなかで生まれ育ち、新しい中国を象徴する世代である。また、「八〇後」の大多数は一人っ子である。 「八〇後」の親の世代は、文化大革命の混乱によってまともな教育が受けられなかった。勉強したくてもできなかった。この文化大革命の苦い経験が作用して、親のすべての期待が子どもの肩にかかってしまう。なかでもさらに学業成績への期待は大きい。多くの家庭は第二の教室に成り変わり、学校教育の延長の場となっている。保護者はエネルギーと財力を注ぎ込み、習い事や試験勉強を促すばかりである。 筆者が2019年に北京市のある小学校で課題意識 中国は1980年代から市場経済の導入を伴う改革開放政策を開始し、人口の増加が経済発展を阻害することを理由に、一人っ子政策を実施した。 一人っ子政策は国家主導で行われた人口抑制策として知られており、30年余り継続されてきた。 少子化が進み、経済成長を支える労働人口が減少に向かうなかで、2015年10月に二人っ子政策が決定された。 この政策転換は高齢化社会への対策として理解されているが、子どもの数の変化に止まるばかりでなく、マンパワー政策の一環としての側面にも注目する必要がある。 経済発展を推進しようとする中国にとって、資質面から問おうとすると、人材育成が必要とされる。これは教育にかかわる問題である。 政策転換は国家戦略に関わる問題であるが、学校・家庭教育などミクロの観点から捉えたうえで未来への展望を示すべきである。 このような研究意識を主軸に、本稿は一人っ子政策に関連する政府の一次資料を参考にし、一人っ子政策のもとで展開されている都市部の学校教育および家庭教育における諸問題を取り上げつつ、それらの問題について政策転換後どのような変化が見られ、予想されるかを概観する。計画生育(家族計画)政策の登場 中華人民共和国成立後、時局に鑑みて段階的に以下のような人口政策を講じてきた。 第1段階(1949~1969年):人口増加段階。出産奨励などにより、1964年の7億人から1969年の8億人に急増。 第2段階(1970~1983年):計画生育政策の形成から全面遂行へ。専門家による家族計画政策が導入されていたものの、文化大革命などの政治運動の影響で十分な効果は得られず、家族計画政策は有名無実化した。しかし政策の制定は、その後の一人っ子政策実施の基礎を固めた。  第3段階(1984~2000年):計画生育政策の安定期。この段階では、出生人口の減少により、国の人口構成が急激に変化し、人口構成問題が次第に顕在化。 第4段階(2001年~現在):人口の変動による負の面がクローズアップ。出生率が極めて低く、政府が一人っ子政策を緩和する方向へと向かう。二人っ子・三人子政策への転換 中国は2000年に高齢化社会に突入した。2020年に実施された第7回全国国勢調査の結果を見ると、中国は生産年齢人口が減少し、人口高齢化が徐々に加速していることがわかる。2010年に実施された第6回同調査と比較すると、生産年齢人口は4000万人以上減少し、60歳以上の人が総人口の18.7%を占めていた。また、1969年代に生まれた第

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