GLOCAL Vol.21
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4GISと深層学習で屋根上太陽光パネルを捉える-春日井市の事例-国際人間学研究科 歴史学・地理学専攻 准教授安本 晋也(YASUMOTO Shinya)英国イーストアングリア大学環境学研究科Ph.D.課程修了。Ph.D.(環境学)。専門はGIS(地理情報システム)を用いた人文地理学・環境学の研究。近年ではGISを用いた脱炭素社会実現に向けての関連研究や、環境の健康影響の研究を行っている。ず、また地上設置型の太陽光発電と異なり、景観の保全や防災上の問題が少ない。ややシンプルな計算ではあるが、日本におけるすべての住居の屋根上に太陽光パネルを設置した場合、その発電容量は原子力発電所数十基分になるとの試算もある1)。 福島第一原発事故以降、FIT(固定価格買取制度)や各自治体の補助金などの後押しを受けて、世帯における屋根上太陽光パネルの導入数は増加した。しかし、それら屋根上太陽光パネルが正確にはどのように地理的に分布しているかは分かっていない。そのため、どのような特徴を持つ地域に屋根上太陽光パネルの導入世帯が多いのか、あるいはどのような世帯が何の目的で導入したかといったことが把握されておらず、太陽光パネルの導入に寄与した要因は不明瞭なままである。 最近の筆者の研究では、平川翼先生(本学AI数理データサイエンスセンターおよび中GIS(地理情報システム) GISとは、コンピュータ上のデジタル地図を統括し、様々な地理学的な分析や情報の可視化などを行うシステムのことを指す。GISの原型となるシステムは1960年代にカナダにおいて開発され、その後の90年代においてコンピュータやインターネットの普及が進むと、GISの活用が様々な領域で進むようになった。さらに2000年代後半からスマートフォンが流通したことが、多くの人が日常的にGISを利用することにつながった。今日の身近な例としてはGoogle Mapsや各種SNS、Uber Eatsなどの企業サービス、さらには防災や防犯、都市計画などの行政サービスにもGISが活用されている。 地理学の研究においても、GISは様々な領域で取り入れられている。本稿では屋根上太陽光パネルを主題に、GISを用いて気候変動への取り組みにどう貢献しうるかについて紹介する。GISと深層学習で屋根上太陽光パネルを捉える 2011年の福島第一原発事故をきっかけに、日本国内における原子力依存からの脱却と防災への意識が高まった。さらに2020年には、気候変動が進行していることを受けて日本政府は2050年までにカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする取り組み)の達成を宣言した。これらの課題解決のためには原子力以外の温室効果ガスを排出しない電源の確保が必要であり、特に住居に屋根上太陽光パネルを設置していくことが重視されている。 屋根上太陽光パネルは独立した分散型電源なので災害などによる長期停電の影響を受け図1. 春日井市内の建物の空中写真(左図)と、それを元に深層学習によって識別された太陽光パネル(右図・黄色いポリゴン)

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