GLOCAL Vol22
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84. ヘルスケア関連を学ぶ日本人学生を対象にした英文学作品の精読活動の実践(文学作品受容のあり様について分析、考察)今後の研究活動 ナラティブ・メディスンにおいて、精読によって向上する能力として指摘されているのは、Ⅰ)患者に対する想像力を養う、Ⅱ)患者に対する共感を深める、Ⅲ)臨床における倫理的特質への気づきを高める、Ⅳ)患者への気づきの範囲を広げるといったものである。これらの能力の涵養のため、文学理論に則った解釈と医学の視点を交えて論じた例を比較し、ナラティブ・メディスンのための文学作品の読みについての事例提示を試みる。参考文献Charon, R. (2000). Reading, writing, and doctoring: Literature and medicine. The American Journal of the Medical Sciences, 319(5), 286.Caron R. (2006). Narrative medicine, honoring the stories of illness, NY: Oxford UP.Charon, R. et al. (2017). The principles and practice of narrative medicine, Oxford UP.Hunter, K. M. (1991). Doctors’ stories: the narrative structure of medical knowledge. Princeton NJ: Princeton University Press.Jones, A. H. (2013). Why teach literature and medicine? Answers from three decades.The Journal of Medical Humanities, 34, 421.「ナラティブ・メディスン」とは ナラティブ・メディスンとは「物語を取り入れた医学」という意味で、医学の分野で展開される治療や患者コミュニケーションの一要素としてナラティヴ、つまり物語や語りの解釈に関係するアプローチを取り入れる方法を指す。人文学の導入による医学の向上を目的としている。本研究の目的 本研究の根本的問いは「文学は如何にして医学に寄与できるか」というものであり、この問いについてナラティブ・メディスンの関係者がさまざまな見解を述べている。本研究では、日本の高等教育における医療系分野専攻の学生を念頭に置き、教養課程の英語教育の範疇を想定したナラティブ・メディスンのためのテクスト解釈法の提示を試みる。本研究の背景―「文学と医学」 ナラティヴ・ターンとは、それまで科学的根拠に主眼においていた人間科学の分野において1990年前後に分野横断的にナラティヴへの関心が高まり、それを研究方法や治療の中心に据える流れが広まった、その現象を指す。 先行研究によると、例えば米国における医学分野のナラティヴ・ターンは「文学と医学」の関係性の上に発生したと位置付けることができるとされる。そして医学の分野に先立ってその数十年の間に人間科学の分野全般で起こったナラティヴ・ターンを反映し、医療人を育成するための医学教育の焦点が「文学」よりも「ナラティヴ」にシフトして行ったため、医学における「ナラティヴ」とはある意味で当初は文学の意味、ないしは文学と同義の性質を内包していたと言える。 このような米国における「文学と医学」の協働の歴史を踏まえ、本研究ではナラティブ・メディスンの立場から文学作品を解釈するための方法論として作品精読の具体例を示し、日本における医療系分野専攻の学生を対象とした英文学作品の精読活動のためのスキームを提示する。研究計画1. 「ナラティヴ」という諸分野において異なる定義を有する用語の歴史的背景に関し、「文学と医学」を中心に整理を行う2. ナラティブ・メディスンのための「精読」のアプローチ方法を提示する3. 具体的な文学作品を用いた文学研究アプローチに基づくナラティブ・メディスンのための読みの事例提示を行うナラティブ・メディスンにおける英語文学作品の精読活動―その解釈作業と期待される教育効果について―国際人間学研究科 言語文化専攻 博士後期課程1年原 由美子(HARA Yumiko)愛知教育大学大学院教育学研究科英語教育専攻課程修了(教育学修士)。修了後は英語圏文学文化研究、主にアイルランド文芸復興時のアングロ=アイリッシュ文学を対象とした研究を行う。近年はコメディカルの専攻学生に向けた英語学習教材の開発に従事。

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