GLOCAL Vol22
5/12

2023 Vol.223議会の事務局も置かれている『日本近代文学館』(東京都目黒区)に触れておきたい。1963年に開館し、約120万点の資料を収蔵、主に研究者の利用に供しながら、企画展や各種講座も開催している。姉妹館とされる『神奈川近代文学館』(横浜市)も、総合資料館としての機能を果たしつつも、神奈川県に関わりが深いテーマでの企画展を継続的に開催し、広く観覧者を集めている。おわりに―「文学館」の新たな動き「文学館」を訪れるのは研究者や文学好きな人々が中心で、必ずしもその数は多くはない。殊に近年は、大学の文学関係学科の改組や廃止が相次いでいることにも象徴されるように、文学そのものが、以前よりも人々の日常から遠いものになり、その余波は「文学館」にも及んでいるようである。そのような状況の中で「文学館」の側からも新たな動きが起こっている。 一つは、近代の文学者が主要なキャラクターとなって活躍するゲーム『文豪とアルケミスト』(2016年より配信)が多くの若い人たちの間に広まったことで、各地の「文学館」がコラボ・タイアップ企画を実施し、若い観覧者を飛躍的に増やしていることが挙げられる。 もう一つは、2022年11月から2023年1月にかけて、全国52か所の「文学館」や図書館等が共同・連携して、「萩原朔太郎大全2022」という大テーマの下での企画展を同時多発的に実施して話題を呼んだことである。 こうした動きが、一般の人々、特に若い人たちの文学への関心の喚起につながることを願ってやまない。参考文献東京新聞・中日新聞文化部『文学館のある旅103』集英社新書(2004)中村稔『文学館を考える』青土社(2011)『増補改訂版 全国文学館ガイド』小学館(2013)『近代文学研究における〈資料〉の活用』日本近代文学会(2019)朔太郎大全実行委員会編『萩原朔太郎大全』春陽堂書店(2022)影山亮「文学館・記念館の役割」『昭和文学研究』第85集(2022)潤一郎記念館』がある。東京生まれの谷崎は1923年の関東大震災後、阪神間に住むようになり、1944年に空襲を避けて岡山県の勝山に疎開するまで、転居を繰り返しながらもこの地域に住んだ。『細雪』(1943~48)をはじめ関西を舞台にした作品も多い。館には1万点を超える資料が収蔵されており、それらの一部が展示、公開されている。なお、神戸市東灘区には谷崎が1936年から1944年まで住んだ「倚松庵(いしょうあん)」が現存し、公開されている。 『石坂洋次郎記念文学館』は、青森県弘前市生まれの石坂が1926年から1939年まで居住した秋田県横手市にある。石坂はこの間、秋田県立横手高等女学校、同横手中学校に勤務しながら、『麦死なず』(1936)『若い人』(1937)を発表、その成功によって上京、作家生活に専念することになる。横手時代の教師経験は、代表作の一つである『青い山脈』(1947)はじめ、多くの作品の土台になっている。なお、『弘前市立郷土文学館』にも「石坂洋次郎記念室」があり、石坂が愛用していた品々や各種資料が展示されている。 作品の舞台となった地にある「文学館」としては、長崎市東出津町(旧長崎県外海町)にある『遠藤周作文学館』(写真参照)がある。遠藤の代表作『沈黙』(1966)の舞台となった地にあり、館からは東シナ海に通じる五島灘を望むことができる。また、周辺の地域は教会堂が点在しており、「キリシタンの里」とも呼ばれている。館はエントランスホールにステンドグラスが取り付けられているなど、教会をイメージした造りとなっている。所蔵する資料は、遠藤家から寄贈、寄託されたものをはじめ3万点にも及び、展示や研究利用に供されている。 「文学館」には、その建物が魅力的なものも多い。これまでに言及した、『森鷗外記念館』『芦屋市谷崎潤一郎記念館』や『遠藤周作文学館』も意匠を凝らした建物であるが、安藤忠雄設計の『姫路文学館』や『坂の上の雲ミュージアム』(松山市)も周囲の景観に寄り添いながらも、現代風な外観が、その存在を主張しているような建物である。他方、その地にある由緒ある建物を再利用する形で、その地域の歴史の中にとけ込みながら、「文学館」として活用されているのが、1921年築の旧第一銀行函館支店(函館市景観形成指定建築物)に入っている『函館市文学館』、1936年築の旧前田侯爵家別邸(国登録有形文化財)を利用する『鎌倉文学館』、1891年築の旧第四高等学校本館(国指定重要文化財)の中にある『石川近代文学館』(金沢市)などである。これらは資料の閲覧と併せて、建物も観覧の対象となるであろう。 少し風変わりな「文学館」にも言及しておきたい。一つは、小樽商科大学附属図書館内にある、旧制小樽高商以来の校史に関わる史・資料を収蔵、展示している『小樽商科大学史料展示室』である。ここには、高商時代の卒業生である小林多喜二と伊藤整(二人は一学年違いで、ほぼ同時代に在学し、面識もあった)関係の資料が展示されている。もう一つは、『三菱重工長崎造船所資料館』である。三菱重工長崎造船所では、かつて戦艦武蔵(1942年竣工)が建造された。館には、それを題材にした吉村昭の小説『戦艦武蔵』(1966)に関わる資料が展示されている。両者とも、その場所の持つ「現場性」とでも言うべきものを感じ取りながら観覧できる施設である。 最後に、総合資料館として、全国の「文学館」の総元締め的存在であり、全国文学館協遠藤周作文学館(エントランスホール)

元のページ  ../index.html#5

このブックを見る