GLOCAL Vol22
8/12

6書き言葉と話し言葉の特徴を明らかにすることである。二つ目に、質的調査から母語の影響を見ることである。複合動詞の使用について、母語はどのような役割を担っているのか調べることによって、将来日本語の複合動詞の教育に役立てることができる。 量的調査として、日本語学習者コーパス『多言語母語の日本語学習者横断コーパス(International Corpus of Japanese as a Second Language, 以下 I-JAS)』を使用する。 I-JASを使って、中国人を母語とする学習者の複合動詞の使用状況を調査し、書き言葉と話し言葉の使用頻度で上位を占める語彙15リストを作って比較する。質的調査では、中国語母語日本語学習者に対して、4コママンガを用いた課題と穴埋め問題を使って複合動詞の知識に関する調査をする予定である。引用文献(1)陳曦(2007)『日本語科学』22,79―99,国書刊行会(2)寺村秀夫(1984)『日本語のシンタクスと意味Ⅱ』くろしお出版(3)長嶋善郎(1976)「複合動詞の構造」『日本語講座4日本語の語彙と表現』大修館書店 63―104(4)松田文子(2002)『言語文化と日本語教育』2002年5月特集号 170―184.(5)姫野昌子(1978a)「複合動詞『~こむ』、および内部移動を表す複合動詞類」『日本語学校論集』5,東京外国語大学 47―70.(6)山本清隆(1984)「複合動詞の格支配」『都大論究』21,32―49.陳曦(2007)『日本語科学』22,79―99,国書刊行会はじめに 筆者は、日本語を学んでいた時、周りの学習者の複合動詞の使用頻度が低いことに気づいた。複合動詞を使うと単純動詞の場合より言語の表現力が豊富になって、複雑な事柄を表現できる。先行研究でも、母語話者と比べて、学習者は複合動詞の使用頻度が低いことが報告されている。 本研究は、中国語を母語とする日本語学習者を対象に複合動詞の使用状況と習得状況について調査するものである。先行研究 複合動詞の研究には、分類研究、意味研究、量的調査がある。分類研究については、寺村(1969)、長嶋(1976)、山本(1984)の流れがある。寺村(1969)は、複合動詞になっても元の意味を保持されているかどうかの観点から四類型に分類した。長嶋(1976)は、前項動詞と後項動詞が複合動詞文そのものと、どのように結びつき得るかに着目し複合動詞を二類型に分類した。山本(1984)は、複合動詞の格成分が前項動詞または後項動詞とどのような対応を見せるかに着目して、その明示的基準により、四類型を分類した。長嶋の分類は、分類基準が明示された点で寺村を一歩進めたものであると評価される一方で、他の類型について言及がないことも指摘されている。寺村が「意味的な観点」から分類したのに対し山本の研究は、「前項動詞と後項動詞の格支配がどのような形で関わり合っているのか」という「統語的な観点」から分類したものであり、一つの客観的基準が示されたという点で評価される。 意味研究では、姫野(1978)や松田(2002)の研究などがある。松田(2002)は、意味認知論を援用して、「~こむ」のコア・スキーマをコア図式であらわし、「~こむ」の多様な意味の統一的な説明を試みた。「~こむ」の多義的で見えにくい意味構造を明らかにした。 量的調査としては陳(2007)がある。陳(2007)は、日本語学習者と母語話者を対象に両方の複合動詞の使用状況について量的調査を行った。KYコーパスと上村コーパスを利用して、学習者の発話データと母語話者の発話データから、複合動詞の使用状況を分析した、その結果、母語話者と比べて学習者による複合動詞の使用総文字数や使用率が少ない傾向があることを報告した。この他に苑、黄(1998)、邱、、陳(2004)、(2005)など中国語の複合動詞の研究で参考にする予定である。研究課題と研究方法 本研究で明らかにする課題として、一つ目は中国人学習者の複合動詞の使用に関して、中国人学習者における複合動詞の習得研究国際人間学研究科 国際人間学研究科言語文化専攻 博士前期課程1年 (RAN Keihou)1998年生まれ。2020年中国の西南科技大学を卒業。専攻は日本語日本文化コース、日本語教育。現在、中国語を母語とする日本語学習者を対象とした、複合動詞の習得研究について研究している。趣味はアニメ鑑賞、旅行。

元のページ  ../index.html#8

このブックを見る