GLOCAL Vol22
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2023Vol.227グラムが使うデジタルアーカイブがあっても良いのではないかと考えた。プログラムが使うデジタルアーカイブ 本研究では必要となる音を無作為に蓄積し、その音に関するメタデータを整備することで必要な音を探し出すことを目的とする。環境音に特化した音資源デジタルアーカイブがあれば、コストをかけずにコンテンツに沿ったサウンドスケープを選択することが可能になる。人の手によるサウンドデザインを経ずにサウンドスケープを利用できるようにすることが、本研究の目的である。図1 システム概要図 現在、機械が利活用するための環境音を稚内や那覇で収集しており、今後、デジタルアーカイブ化したのち、実験していく予定である。引用文献R.マリー・シェーファー,鳥越けい子訳「世界の調律」平凡社 2006はじめにBGMがあった 古来より「鐘の音がよく聞こえると雨」という。遠くの鐘の音が聞こえるときは雨が降りやすいという意味で、気象条件と音の伝播について指摘した諺である。 BGMやSEは様々なエンタテインメントコンテンツや、場所の雰囲気を向上させるために、昔から制作、消費され続けている。一つの職種としてサウンドデザイナーも存在し、環境に合わせて繊細な調整を行っている。それこそ、気象条件に合わせて音の響きを調整している。 そして、2000年代にはYouTubeの浸透で、素人が動画を作成するようになり、汎用的なBGMとSEが使われることが目立つようになった。YGMの時代になって、調整されていない音が、そのまま使われるようになってきたのだ。VR環境と生活様式の変化 近年VR環境の発展が目覚ましい。2000年代まではVR用のコンテンツを行う際に必要な環境が、大掛かりでコストがかかるため、テーマパークなどで運用されてきた。しかし、近年は家庭用の機器も出現し、そのコンテンツの数は増加している。とくに、2016年に入るとOculus社が発売したVRヘッドセットRiftを皮切りに、家庭用VRヘッドマウントディスプレイが多数発売された。家庭用VRヘッドマウントディスプレイは、それまでのVRに必要だった環境に比べ小型で安価であるため、VR触れる人口が増え、VR上でのコンテンツ量の増加、および消費が激しくなった。 また、2020年から全世界的に感染爆発を起こした新型コロナウイルスによって、これまでの生活様式から一変してしまった。その影響から、仮想空間上で社会活動や、円滑なコミュニケーションを行う支援システムの発展が社会的課題となり、いわゆる「メタバース」について研究や議論が盛んに行われるようになった。解説 みなさんはコンテンツの中で「目に写っている状況」と乖離した「音」が流れていた経験はないだろうか。この状況を解説するにあたって「サウンドスケープ」概念が重要になってくる。 サウンドスケープとは、1960年代にR.マリー・シェーファが提唱した「風景には音が欠かせなく、自然の音として聞こえてくる音には聞き手側の認識も含まれている」という概念のことである。現在では「コンテンツ内、全ての音のこと」を指していることが多い。 現在まで「目に写っている状況」と「音」の違和感を解決するために、その状況に合わせた音が一から作られてきた。だが、将来には、VRを使用するコンテンツが音を詳細に作り込む程、コストをかけられるものではなくなると筆者は考えている。その際に、プロサウンドスケープデザイン支援を目指した音資源デジタルアーカイビングシステムの開発国際人間学研究科 言語文化専攻 博士前期課程1年坂本 菫(SAKAMOTO Sumire)2000石川県金沢市年生まれ。2022年4月に国際人間学研究科言語文化専攻に進学。その土地ごとの環境音を四六時中録音することで、「まち」を「音」でアーカイビングできないかと考えている。現在は、収集した音データにメタデータを付与する作業を行いつつ、音響学やバイノーラル録音といった研究に関連する学問と格闘中。

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