GLOCAL_Vol.23
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2023 Vol.232023 Vol.232023 Vol.237が、一般の生徒がその様子を見る機会はほとんどない。宗教知識教育に偏った教育であり、宗派教育も宗教文化教育もみられなかった。さいごに 宗教系私立学校の全てにおいて十分な宗教教育が行われているとしても、全体を見れば宗教の知識を十分学ぶことのできる生徒は少数派である。公立学校では宗教を主題として取り上げて学習する機会はほとんどない。 一般に広く宗教リテラシーを向上させることは、宗教に関する問題に巻き込まれないためや宗教活動に参加する際の判断材料を人々にもたせることとなり得る。そのための宗教教育の在り方として、公立・私立の違いなく宗教教育が求められる。その形は宗教文化教育であることが望ましい。そのために、教科教育の再検討や教員の学びが必要となるだろう。 学部での卒業研究において明らかになった現在の日本社会における宗教のイメージや立ち位置をもとに、修士論文においては他者と繋がるための場としての教会を取り扱いたいと考えている。引用文献井上順孝(2020)『グローバル化時代の宗教文化教育』弘文堂.小幡啓靖(1997)「宗教系私立学校の宗教教育の理念に関する研究」『東京大学大学院教育学研究科紀要』(37),pp.361―369.橘木俊詔(2013)『宗教と学校』河出書房.文部科学省「高等学校教育の現状について」:file:///C:/Users/shior/Downloads/20210315-mxt_kouhou02-1.pdf (2023年6月5日確認)はじめに 日本には宗教を信仰していないと考える人が多くいる中で、特定の宗教を信仰し宗教活動を熱心に行う人もいる。宗教に対する無関心さが広がる中で起こる宗教に関わる事件を目の当たりにした際、あるいは宗教に関わる問題を回避するために、「宗教リテラシー」、つまり、宗教に対する理解や知識が必要となる。 そこで、宗教と教育について、日本の高等学校に焦点を当て、宗教リテラシーを身に付けるための場として、学校教育は何を行っているのか、またどのような役割を果たせるのか検討していく。日本の教育制度における宗教教育の立ち位置と宗教教育の分類 公立学校では宗教的活動が禁止されているが私立学校ではその限りではなく、公立学校においても宗教の内容に触れることや宗教的情操教育を行うことまでは禁止されてはいない。公立学校においても、宗教に関する知識を教え、特定の宗教によらない、宗教性を中和させた表現で情操教育を行っている。いずれにせよ、特定の宗教を勧めることや、宗教の教義に基づいて行われる活動が禁止される一方で、宗教そのものに対する寛容の態度や上記のような情操教育のための知識教育は認められている。 私立学校における宗教教育を大別すると、次の3つになる。1つは、宗教教育を大きな目的の一つとして位置づけて、宗派教育を熱心に行う学校である。2つ目は、入学式や卒業式、あるいはその宗教に固有な日における宗教儀礼、必修の「宗教」の講義、宗派教育や宗教情操教育、宗教知識教育を行う学校で、中学・高校に多い。3つ目は、儀礼はあるものの「宗教」の講義は選択制で必修ではなく教学方針に宗教性が残るのみである。 上で挙げた三つの宗教教育の他に、21世紀になってから新たな分類として宗教文化教育が提唱された。これは宗教の知識を母体としながら日本や世界の様々な宗教文化に実際に接する機会を多く持つことで、それらに対する理解を深め、「宗教の生きた姿」への学びを深めることを目指している。宗教系私立高校における宗教教育―実体験を交えて 主にキリスト教系の私立学校では、キリスト教の教義から、弱く貧しい者、つまり学業に不安を感じる人に対する教育を掲げている学校もある。しかし、そのような学校はごく少数であり、現状は学歴偏重の社会通念や学校運営の都合に影響され、学校の宗教性は強調されない傾向にある。 そのような事実がある中で、筆者の実体験を一つの事例として挙げる。筆者が卒業した高校は名古屋市内にある曹洞宗系の私立高校で、明治時代に僧侶の養成学校として創立した学校である。宗教に関する行事がある他、週に1度「宗教」の授業が行われ、仏教を中心にしつつユダヤ教や神道など広い範囲の宗教知識教育が行われている。将来僧侶になることが決まっている生徒は別途宗派教育がある日本の高等学校における宗教教育の現状と可能性国際人間学研究科 国際関係学専攻 博士前期課程1年西田 汐里(NISHIDA Shiori)1998年愛知県名古屋市生まれ。2023年3月中部大学国際関係学部を卒業後、同年4月国際人間学研究科国際関係学専攻に入学。専門は宗教学。現在、宗教団体によるコミュニティの内実とそこに新たに参加する人々の動機から、人々を繋ぐための役割を持つ場としての宗教を研究している。

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