GLOCAL_Vol.23
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8日本語で「断り」をするときの配慮について国際人間学研究科 言語文化専攻 博士前期課程1年伊藤 優磨(ITO Yuma)2000年生まれ。2023年中部大学人文学部日本語日本文化学科を卒業。卒業後は、日本語学を専攻。現在、日本語で「断り」を行なう際の配慮について研究している。趣味は、爬虫類を探して歩くこと・映画鑑賞。違いがあるかを明らかにすることである。また、断られる側はどのような「断り」によって不快感が和らぐかを明らかにすることである。 先行研究では、意味公式における[詫び][理由]が「断り」において重要な意味を持ち、文末は相手との諸関係によって変わることが分かっているが、アンケートや記述などの自己申告によるものが多い。 そこで本研究では、ロールプレイとフォローアップインタビューによる調査を行なう予定である。ロールプレイは、自然談話に近く、統制された条件下で比較可能であることが、稲垣(2007)によって指摘されている。また、フォローアップインタビューにより、相手との関係性による違いだけでなく、その断りの談話自体が断りやすかったかどうか、嘘をついたかなどの無意識の部分と、実際に現れる表現形式の関係性についても観察が可能になるため、本研究でも取り入れる。稲垣(2007)では、男女差について言及されているが、対象者が6人と少ないため、正しいデータが得られたとは言えない。調査対象者を増やすことで異なる結果が得られると予想する。引用文献(1) 伊藤恵美子(2002)『ことばの科学』15、179―197、名古屋大学言語文化研究会(2) 稲垣桂(2007)『学習院大学大学院日本語日本文学』3、84-62、学習院大学大学院人文科学研究科日本語日本文学専攻(3) 権英秀(2008)『現代社会文化研究』43、225―242、新潟大学大学院(4) 田中典子(2011)『ポライトネス:言語使用における、ある普遍現象』研究社(5) 村井巻子(2009)『 筑波大学地域研究』17―30、筑波大学地域研究科(6) Brown, P.&Levinson, S.C. (1987) Politeness: Some universals in language usage. Cambridge University Press.はじめに 「断り」という言語行動は、筆者が学部での卒業研究で行なった「大丈夫」の拡大用法との関連性がある。例えば不要を表わす「大丈夫です」は、拒否や「断り」を表わすことがある。これらの「大丈夫」の使用法は、話し手の配慮によるものであることが分かった。そこで、本研究では、「誘い」や「勧誘」に対して「断り」を行なう場合、相手との諸関係によって、方策や文体に違いがあるか、どのような配慮が行なわれているかを調査することにした。先行研究 「ポライトネス理論」において、人にはフェイスがあり、フェイスを侵害しないようにお互いに配慮している。特に、拒否や断りなどのネガティブな言語行動を行なう場合に配慮行動が見られる場合が多いと指摘した(Brown & Levinson、1987)。断り表現を研究するにあたり、先行研究として、権(2008)、伊藤(2002)、稲垣(2007)、村井(2009)を取り上げる。 権(2008)は、「断り」は相手との人間関係に影響を強く及ぼしやすいために、断る側は断った後のリスクを減らし「断り」を成功させるために、依頼者との諸関係を慎重に考慮した上で、「断り」を遂行しなければならないと述べた。 伊藤(2002)は、相手にかける負担の度合いを調査するために、日本語母語話者(52名)に談話完成テストによる調査を行なった。調査の結果、日本語母語話者は、応答の順序の第一に{詫び}が、第二に{理由}が来るパターンが全場面で共通して見られ、応答の最後は相手との諸関係によって異なることが分かった。 稲垣(2007)は、男性3人、女性3人の計6人に対して、以下の設定に基づきロールプレイとフォローアップインタビューを行なった。・ 社会的、あるいは年齢的に目上か同等か目下か([上][同][下])・親しいか親しくないか([親][疎])・今後も付き合いがあるかないか([○][×])・男性か女性か([男][女]) 調査の結果、全体的に最も断りやすいのは[同・親・○]や[下・親・○・女]に対してであり、最も断りにくいのは[上・疎・○]や[上・親・○・女][同・疎・×・女]であった。稲垣(2007)は、ロールプレイを用いており、自然な会話に近いデータを採取している点が評価できる。上下関係や親疎関係だけでなく、男女差についても言及しているが、対象者が少ないため、より詳細なデータを得るために、対象者を増やして調査を行なう必要がある。 村井(2009)は、相手に好感を与える方策は、場面や対人関係によって変わるのかどうかを調べるために、学生にアンケート調査を実施した。調査の結果、場面では差が見られなかったが、対人関係によって変わることが示唆された。上下関係においては、『スピーチ・レベル』が決定的な意味を持ち、親疎関係においては『方略』における[詫び]と[理由]が重要であることが分かった。 先行研究において、よく見られる応答のパターンや断りやすい相手などが明らかになっているが、上述したように、稲垣(2007)は対象者が少ないことが課題である。本研究の目的と調査方法 本研究の目的は、日本語で依頼などを断るときに、どのような配慮が行なわれているか、「依頼」や「勧誘」に対して「断り」を行なう場合、相手との上下関係や親疎関係、今後の関わりの有無、性別によって、方策や文体にどのような

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