GLOCAL Vol24
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6米国アフリカ系女性議員から学ぶこと米国下院議員バーバラ・リーについて このドキュメンタリー映画の主人公であるバーバラ・リーは、1998年の初当選以来、圧倒的な得票率で再選を重ねているカリフォルニア州北部のベイエリアを地盤とする民主党の連邦下院議員であり、また連邦議会では現在でも数少ないアフリカ系女性議員(2024年1月現在で31人)の一人である。リー議員が一躍有名になったのは、2001年9月11日の同時多発テロ直後に、合衆国議会が軍事力行使承認決議をした際に、唯一人反対票を投じたことがきっかけだった。報復感情で一色となっていた当時のアメリカで、リー議員はあえて武力行使の抑制を求め、大統領の権限の際限なき拡大に断固として異議を唱えたのである。映画の前半では、リー議員がこのような決断に至った動機や背景について、本人はもちろん彼女の家族、同僚議員、スタッフ、支援者など多くの証言を交えながら詳細に描かれている。彼女の元には当時殺害をほのめかす脅迫文が数多く届いていたようで、テロ直後のナショナリズムが高揚する好戦的な雰囲気の中で、このような決断をするのがどれだけ勇気の要ることだったのかがわかる。議会の貧困に関する公聴会で発言するバーバラ・リー(ギンズバーグ監督提供)はじめに 2023年11月29日に国際人間学研究科国際関係学専攻セミナー「米国アフリカ系女性議員から学ぶこと」が開催された。本セミナーは2部構成で、まずドキュメンタリー映画『権力を恐れず真実をー米国下院議員バーバラ・リーの闘い』が上映され、その後「正義と平和を求めて―政治家バーバラ・リーの闘い」と題する講演を私が行った。この映画の日本語字幕監修を務めたことに加え、各地で開催されている本作の上映会のアフタートークで解説を行うなど、これまで約1年半にわたり私はこの作品と深く関わってきた。本稿ではこの映画の内容を紹介し、日本での上映に関するこれまでのいきさつを振り返ると共に、中部大学で本作を上映することの意義、映画に対する学生の反応、講演会の内容を含め、本セミナーの概要を報告したい。映画『権力を恐れず真実を』 について 『権力を恐れず真実をー米国下院議員バーバラ・リーの闘い(原題はBarbara Lee: Speaking Truth to Power)』は、米国出身のアビー・ギンズバーグ監督が2020年に製作した83分のドキュメンタリー映画である。弁護士でもあるギンズバーグ監督は、35年以上にわたり人種や社会正義をテーマとしたドキュメンタリー作品を撮り続けている。代表作には2019年あいち国際女性映画祭でも上映された、第二次世界大戦中の米国での日系人強制収用問題を扱った『そして私たちの番が来た(And Then They Came for Us)』(2017年)がある。 映画『権力を恐れず真実を』は日系移民史研究者で、本学でも長年非常勤講師を務められた柳澤幾美氏によって日本に紹介され、2022年9月8日にあいち国際女性映画祭で初上映された。本作の上映会には230人の参加があり、同映画祭の平日の観客動員数の記録を塗り替える盛況ぶりであった。映画上映後にはギンズバーグ監督がオンラインで参加する形でトークセッションが開催され、柳澤氏と共に私も登壇し、日本語版製作の裏話や米国の政治事情に関する話をした。 その後、2023年末までに15回の上映会が日本各地の会場やオンラインで実施され、2024年にもすでに複数の上映会の開催が決定している。上映会の主催団体にはアカデミック関連(名古屋アメリカ研究会、人権思想研究会、東海ジェンダー研究所など)もあるが、もっとも多いのが女性が中心となって活動する民間団体(男女共同参画みえネット、ワーキング・ウィメンズ・ヴォイス(福岡)、女たちのおしゃべり会(岡山)、パリテ・アカデミーなど)や、自治体の男女共同参画センター(フレンテみえ、北九州市のムーブなど)である。この映画がバーバラ・リーという女性政治家のドキュメンタリーであることから、日本におけるジェンダー平等の実現、特に女性の政治参画を推進する活動の一環として上映会が企画されるケースが多い。人間力創成教育院 語学系嘱託講師岡田 泰弘(OKADA Yasuhiro)上智大学外国語学部英語学科を卒業、シカゴ大学で修士号(社会科学)、ミシガン州立大学で博士号(歴史学)を取得。専門はアフリカ系アメリカ人の歴史、アメリカ・ジェンダー史、日米関係史。現在の研究テーマは占領期の日米関係における人種とジェンダー。共著にTranspacic Correspondence: Dispatches from Japan’s Black Studies (Palgrave Macmillan、2019年)、主な論文に「占領下の日本における黒人兵の表象と実態-アメリカ黒人史の視点から松本清張『黒地の絵』を読む-」(『松本清張研究』、2022年)等。

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