GLOCAL 2025 Vol.25(Special edition)
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教員の研究紹介教員の研究紹介教員の研究紹介教員の研究紹介12国際人間学研究科 国際関係学専攻 教授澁谷 鎮明(SHIBUYA Shizuaki)名古屋大学大学院文学研究科史学地理学専攻満期退学。博士(地理学)。専門は人文地理学、韓国地域研究であり、東アジア風水地理思想の展開、日本人作成の近代都市図研究に関心を持つ。著書に『東アジア風水の未来を読む:東アジアの伝統知識風水の科学化(韓文)』(共著)、『自然と人間の環境史』(共著)、『現代韓国の地理学』(共著)など。東アジアの風水に関する学術的研究の評価:「迷信」は研究すべきでない?法」と、②陰陽五行説と易を用いて良い方位を選定しようとする「理法」の二つの方法がある。 他方、良い場所や方位を選んで何を作るのかによって呼称が異なる。一般的にA.死者の居所である墓を作るための「陰宅風水」、B.生者の居所である住宅を作るための「陽宅風水」、C.生者が集まって住む集落を作り整備するための「陽基風水」があるとされる。 日本の場合は上記の②・Bが強く、韓国(朝鮮)の場合は上記①・Aが強いわけである。地域ごとに「風水」はかなりの地域差がある。他方共通点もあり、例えば、上記①の形法があれば同じような場所を良い場所と考えるようになる。空間や環境について関心を持つ地理学者には本来重要なテーマであると思う。「風水」研究への評価 これまで筆者は、かなり長いこと、人文地理学の立場から。韓国を中心とした「風水」に関わる学術的研究を続けている。この風水を研究テーマにしたために、研究を始めた当初、さまざまな肯定的・否定的両面から多くの評価をいただいた。筆者は、この厄介な研究テーマに「振り回され」つつ、得難い経験をするとともに、興味深い場面に遭遇してきたことに最近気がついた。これは、自身の研究スタンスや所属分野である地理学の特性、学術研究と社会とのかかわりに絡む重要な内容と思うので、昔語りになって恐縮だが、以下に述べていきたい。 風水は中国起源の地相術で、気や脈、陰陽五行説にもとづいて、良い場所を選ぶための、伝統的な立地論・空間論としての側面を持っている。またこの風水は東アジア全域に広まり、各地の伝統的な自然観や環境観とも関わり、東アジア各地の伝統的景観・空間を形作る要因として評価されてもいる。 他方で風水はこれまで「取るに足らない迷信」であるという批判も受けており、学術的研究の対象とすること自体憚られるような傾向もある。このように怪しげな「風水」にのめりこみ過ぎている(ように見える?)当時20代後半の院生であった筆者は、アドバイスや何かコメントしてやりたくなる存在であっただろう。東アジアの地理思想としての「風水」 「風水」について今少し説明を加える必要があるだろう。風水は「地理」「堪輿」等とも呼ばれる中国起源の地相術である。陰陽五行や「気」の論理を判断基準とし、良好な気の集まる場所「吉地」を探し、良好な方位「吉方」を選んで、墓地や住宅、集落を造営することで、結果としてそこに葬られる死者や、住民に繁栄をもたらし、「開運」するとされる。この「開運」云々が問題で、前述のように「風水は迷信で怪しげなもの」で、「研究すべきではない」とされた基本的な原因である。 しかしながら、この風水と関わって造営されたり、環境改善が行われたりした墓地・住宅・集落などの造営物(図1・2)は、枚挙にいとまがない。また風水による地形把握の方法は、東アジア各地の近世までの地誌書や古地図のような地理情報(図3)や、族譜(家系図)に多く表れる。ある程度風水の素養がないと、東アジアの古い地理情報にある記述の意味が読み取れなくなることもあるだろう。 さらに中国起源ではあるものの、風水は東アジア全域に流行し用いられた。その際に内容と適用分野で取捨選択が行われ、地域差が生じている。例えば現在日本では風水イメージは「インテリア占い」かもしれないが、韓国では風水と言えばおそらく「墓」がイメージされるであろう。 これは東アジアの風水に「2つの方法・3つの対象」があるためである。風水でよい場所や方位を選ぶ際には、①地形を気の流れとしてとらえ良い地点(明堂・穴)を選ぼうとする「形図2 風水の論理で造営された朝鮮時代の王陵図1 風水の論理で説明されるソウル王宮の立地
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