GLOCAL 2025 Vol.25(Special edition)
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教員の研究紹介教員の研究紹介教員の研究紹介教員の研究紹介14国際人間学研究科 国際関係学専攻 教授中野 智章(NAKANO Tomoaki)南山大学大学院文学研究科文化人類学専攻博士後期課程修了。博士(文学)。専門分野はエジプト学、考古学。古代エジプト文明の盛衰やヨーロッパに与えた影響について研究している。南山大学で人類学(主専攻:考古学)、オックスフォード大学でエジプト学を学び、日本学術振興会特別研究員、古代オリエント博物館学芸員を経て中部大へ。エジプト展の監修や、ピラミッドや神殿の遺跡調査を行っている。エジプト人気の裏側でるにせよ、最も重要な基礎学力となるという考え方に沿ったものであったように思われる。 かくして学部授業の大半は数種類ある象形文字の習得に費やし、加えて「歴史」、宗教や美術など様々な分野を学ぶ「文明」、エジプトで発見されている数多の「遺跡」、実際に発掘された遺物を用いた「博物館」などの授業を履修した。 ただ、それだけでは単に知識を増やすに過ぎないため、隔週で与えられた課題に関する5ページから10ページほどのエッセイ(小論文)を書き、論文の執筆法を学んだ。テーマはエジプト学上の重要なトピックや未解決問題などと幅広かったが、課題には最初に読むべき書籍や論文のリストが示されており、それらを読んで研究史を把握した上で自身のアプローチを考え、そこから関連する文献や遺物、遺跡にあたって自身の仮説を証明したり、研究の可能性を示したりすることが求められた。 日本の大学でエジプト文明を学び始めた当時、考古学で大学に就職しようなどと考えるのは宝くじに当たるようなもの、ましてやエジプト考古学では食っていけないと指導教員に忠告されたが、「エジプト学」という学問分野が確立し、ポストもあるように(留学当時は)感じていたイギリスでも、エジプト学科に入学するのはかなりの賭けだったようで、1学年の人数は私を含め3人に過ぎなかった。「日本学」と「エジプト学」 そのような経験から感じたことは、いわゆる世間一般的な古代エジプトのイメージとは異はじめに エジプト考古学を専攻しているというと、ロマンがあっていいですね、と言われることがある。おそらくは、発掘に伴う華やかな発見のイメージが強いのだろう。ただ、個人的にはツタンカーメン王墓のような世界的に知られる遺跡を発見したいなどという大志を抱いたことはなく、幼い頃の想いを振り返ってみると、むしろミイラのような怖いもの見たさだったり、象形文字のような不思議なもの見たさだったりした面が大きかったように感じる。 小学生の時分に名古屋市博物館で見たカイロ博物館の展覧会では、遺物に彫られていた象形文字ヒエログリフの不思議さに興味がわいてその意味を知りたくなり、自宅に置かれていた、父が少年時代に読んだという山川惣治著『少年王者』の復刻版では、怪人アメンホテップが独特の挿絵とともになんとも言えぬ不気味さを醸し出していた。時代は移り、今の学生が抱く古代エジプトのイメージはONE PIECEやMARVELに登場する不思議な文字や神々ということのようだが、数十年が経過した今でも何かしら共通する面はあるのかもしれない。「エジプト学」と「エジプト考古学」 さて冒頭で「エジプト考古学」と記したが、本稿のプロフィール欄にもあるように、自身の専門分野は「エジプト学、考古学」としている。「エジプト学(Egyptology)」とは、古代エジプト文明を研究する学問分野全般を指し、考古学はその一部分である。例えば、発掘調査を行うのは考古学だが、そこで発見された遺物や遺構に象形文字などが記されていれば、それを解読するのは文献学(碑銘学)であり、壁画に記された図像や出土した彫像などを解釈する際には美術史の出番となる。神々であれば宗教学、建築を細かく見るのであれば建築学など、要は一つの文明全般を扱うために関連する学問分野は多岐にわたる。 しかしながら、今も昔もそうした「エジプト学」を専門的に教える学科は国内に存在しない。大学選びの際には、「エジプト考古学」や「人類学」といった授業名が記されていた大学案内を見て地元の大学に進学したが、そこで扱われていたのはその名の通り「エジプト考古学」であったため、授業を担当されていた非常勤講師の屋形禎亮先生(当時信州大学教授)に書籍をご紹介頂き、歴史や象形文字の自習に励んだ。ただ、あくまで自習に過ぎなかったため、そのまま同じ大学の大学院に進学すると同時に休学し、イギリスの大学院で念願のエジプト学専攻に留学した際も、結局は学部のエジプト学科で一から勉強をやり直すこととなった。 そこで気づいたのは「エジプト学」の基本はまず文献学であり、象形文字の読解力が何より重要とされていたことであった。もっともこれはその留学先の教育方針であり、必ずしもエジプト学科を擁するすべての大学に共通するものでないことは後に知るところとなったが、それは文字を通して当時の人びとの思想や世界観にふれることが、将来的にどのような学問分野を専門として古代エジプト研究に携わ
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