GLOCAL 2025 Vol.25(Special edition)
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教員の研究紹介教員の研究紹介教員の研究紹介教員の研究紹介18国際人間学研究科 言語文化専攻 講師河村 陽介(KAWAMURA Yosuke)名古屋工業大学大学院工学研究科社会工学専攻博士前期課程修了。修士(工学)。情報メディアを用いたインタラクティブ作品の制作やワークショッププロジェクトを行なっている。2005年より移動型ラボ「MOBIUM」を主宰。「TOYOTA HACK CAMP」、日韓交流事業「CONSONARE」などを企画。あいちトリエンナーレ2016ではワークショッププロジェクト「Locus Faber Tsukulocca」のプロジェクトリーダーを務めた。なごや日本博事業「streaming heritage」では共同ディレクターを務めた。地域とメディア表現てもらうなど美術館や瀬戸にゆかりのある素材を使用し、陶製狛犬の魅力を次代に伝えることをコンセプトに制作している。ナイトミュージアムの展示や映像上演は参加者および美術館関係者に好評であったことから陶磁器や陶製狛犬の魅力を十分に発信できたといえる。図1:陶製狛犬のプロジェクションマッピング筆者制作(筆者撮影) 2019年から2020年にかけて豊田市で行った「TOYOTA HACK CAMP」では、豊田市をリサーチし、現地の資源で造形作品の制作を行うワークショッププロジェクトを実施した。この取り組みでは特に豊田市の北部に位置する小原地区に着目し現地調査を行った。小原は2019年4月時点で人口約3500名の山間地区である。小原の特徴として気候や水資源の条件が整っているため和紙の原料となるコウゾの育成に適しており和紙工芸が盛んに行われている。当初小原での和紙は和傘や障子紙などに製造利用されてきたが、近代化により昭和初期には廃れていくことになる。昭和20年以降、工芸家の藤井達吉により美術としての小原和紙工芸(6)の道が開かれていくことになる。小原の調査を行なっていく中で参地域における課題へのアプローチ 少子高齢化や過疎化など地域社会の抱える問題は、地域の産業や伝統工芸などにおいて継承者の減少などの影響を及ぼしている。伝統的工芸品産業振興協会(1)によると1978年では約28万人いた伝統工芸従事者は2016年には約6万人まで減少している。伝統や文化を残すための事例として各地で現地資源や環境を活用したアートやデザインによる課題解決の取り組みが行われている。伝統工芸の職人とデザイナーやIT開発者などが協働し、新しい価値観を創造する工芸ハッカソン(2)や過疎化した農村や空き家などにアーティストを介入させることで場所性を活かし、魅力を引き出すアートプロジェクトや芸術祭(3)などが挙げられる。このような活動によって地域の文化を発信することで新しい価値観を創出し若者に興味を持ってもらい人材の新規開拓や移住などを通して文化継続の糸口となることが期待される。そういった中で地域の集客イベントとして公共施設や廃校などを利用したプロジェクションマッピングの公演や、地域を題材としたVRやゲーム作品(4)などテクノロジーやメディア表現を取り入れた地域課題の取り組みが近年注目を浴びている。地域におけるメディア表現活動の紹介 研究室ではメディア表現を駆使し地域や場所に関する調査や制作活動を主としており、これまでに実施した活動を数例紹介する。 「狛犬とめぐるナイトミュージアム」(5)は愛知県陶磁美術館との共同で2022年に企画制作を行なった活動である。陶磁美術館の所在する瀬戸市では鎌倉時代から明治初期まで祝い事や願い事の際に陶製狛犬を作って奉納するという文化があったが現在は廃れてしまっている。このような過去の伝統的な慣習を見直し、魅力を発信するために陶磁美術館が「リ・デザイン・狛犬プロジェクト」を立ち上げ、その2年目の企画として筆者に依頼があった。当初はロビーに設置された陶製狛犬にプロジェクションマッピングを行いたいという先方の希望があり、よりイベント的な拡がりを持たせるために美術館の常設展示エリアをナイトミュージアムに仕立てるという方向性で進めることとなった。制作にあたり、学生とともに5月から美術館の空間と展示物のリサーチを行い、準備・制作を進め、8月末の3日間にナイトミュージアムを実施した。会場は完全に暗転し、来場者はブラックライトで展示物を鑑賞しながらツアーを行う形式で行われた。展示物は指導のもと学生が制作し、壺に光源を仕掛けたものや、ショーケース内から陶磁器が割れる音を鳴らせるもの、書画カメラでフィルムの模様を白磁の壺に投影する体験型のもの、3Dプリンタで造形した光るオブジェなど様々な仕掛けを設置した。常設の展示物にメディア表現を組み合わせることで参加者は普段とは異なる見え方や魅力を体験していた。また、ツアーの最後にはロビーの陶製狛犬のプロジェクションマッピングを鑑賞してもらった。映像は美術館所蔵の陶磁器の模様や、瀬戸で活動するこども太鼓の団員に狛犬の台詞の収録を協力し

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