GLOCAL 2025 Vol.25(Special edition)
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2025 Vol.252025 Vol.252025 Vol.2519ディア表現でサボテンをモチーフにした作例があり、いずれもコンテンツを楽しむことで春日井のサボテンの魅力を知ってもらう、という目的がある。これらの成果物は春日井市の祭りなどで展示公開しフィードバックを得ていく予定である。今後の課題 いずれの取り組みも地域や場所の特性や資源を活用し、素材を活かした上でテクノロジーやメディア表現との融合によって新たな価値観を生み出すことを試みている。ナイトミュージアムのようなイベント性が高いものは家族連れなどが映像や体験型のメディア表現を介することで伝統的な文化に触れる導入として受け入れやすい事例といえる。和紙やサボテン工芸なども実際に手に触れてもらうことで、伝統や地域素材を感じてもらうことができている。ただしこれらの活動は、イベント的要素や技術的観点など興味を高める効果があるが、一過性のものになりがちであるということが課題である。新たな価値観を生み出せたとしても、その定着や掘り下げ、発信を続けるためには、継承する人材や環境づくりが不可欠となるだろう。素材に関しても和紙の原料のコウゾやサボテンなどの自然素材は持続可能性が高い素材といえるが、生産者も減少傾向にあるため、こういった活動を通して若者の興味を高め、人材確保につながることを期待する。参考文献(1)伝統的工芸品産業振興協会 https://kyokai.kougeihin.jp/current-situation/(2024.7.20確認)(2)工芸ハッカソン(富山県高岡市)https://kogeihackathon.com(2024.7.20確認)(3)大地の芸術祭(新潟県)Tunnel of Light/マ ヤンソン・MADアーキテクツ https://www.echigo-tsumari.jp/art/artwork/periscopelight_cave/(2024.7.20確認)(4)地方創生RPG(有限会社井桁屋)https://sousei-rpg.jp(2024.7.20確認)(5)狛犬とめぐるナイトミュージアムアーカイブ映像 https://www.youtube.com/watch?v=hIoq1QuBQLQ(2024.7.20確認)(6)豊田小原和紙工芸(愛知県豊田市)https://washinofurusato.jp/obarawashi/(2024.7.20確認)(7)グッドデザイン賞 和紙が応援太鼓 https://www.g-mark.org/gallery/winners/9e05f7e9-803d-11ed-af7e-0242ac130002?years=2019(2024.7.20確認)(8)Arduino https://www.arduino.cc(2024.7.20確認)加者は和紙工芸に興味を持ち、和紙を使った新しいアプローチを考えていくこととなった。和紙の特性を知るために紙漉きの体験や原料のコウゾを使って実験を行った。実験のひとつとして3Dプリンタで出力したボロノイ構造体に直接紙漉きを行なう、立体紙漉きと呼ばれる技法を施した造形物は、ほどよく光を通すことで照明器具などに使えそうなものとなった。また和紙は行灯などの照明器具などに使われており、強度が高いことから太鼓の皮として利用できないかと考え、行灯と太鼓を両立するような行灯和紙太鼓をいくつか考案した。太鼓の部分は叩く際に強度が足りないため、漆に特性が近い塗料を塗布することでハリのある音が出るようになった。和紙を使った太鼓は福島県郡山(7)や岐阜県美濃でもリデザインの事例がみられ、伝統的な素材である和紙のポテンシャルが高いことがうかがえる。制作は7月にワークショップを行い、その後制作期間を設け、完成した作品は豊田市の廃校で9~10月に展示を行った。来場者にはその場で簡易的な和紙太鼓を作ってもらうワークショップなどを実施し、鑑賞だけでなく小原和紙に触れる機会を設け、多くの方に小原和紙を知ってもらうことができた。図2:小原和紙を使った行灯和紙太鼓(筆者撮影) 近年取り組んでいる「メディア表現を活用したサボテン工芸デザイン」は愛知県春日井の特産品である食用サボテンをデザインや工芸のマテリアルとして扱うことで地域素材を活用し再考するプロジェクトである。背景として春日井市の伝統的な産業や工芸の調査を行った際、市を代表する工芸品などがなかったため、市の特産品を活かしたサボテン工芸を確立させたいということからこのプロジェクトは始まっている。この取り組みではサボテンを素材として取り入れたもの、サボテンをモチーフに制作したものの2グループに分けられる。研究室ではサボテンをテーマに学生にアイデア出しから実際にプロトタイプ制作まで行なっており、いくつか作例を紹介する。 サボテンを素材としたグループの1例としてサボテン和紙工芸が挙げられる。サボテン和紙はサボテンの純度が高いものは結合力が弱いため紙としての強度がなかったことから、強度を出すために和紙製造に一般的なコウゾを配合することとした。配合比率の実験からサボテンとコウゾをおおよそ1:1で使用することで強度とサボテンの質感のバランスが取れた状態になったため、その割合を基準にサボテンの分量を変えることで風合いを調整している。サボテン和紙の作例として、3Dプリンタによるフレームを使用したサボテンの照明器具やサボテン和紙を使った団扇などがある。(図3)これらはともに前項での小原和紙同様に3Dプリンタの造形物や竹の骨に直接、立体紙漉きを行っている。照明器具に関しては3Dプリンタのような現代的な技法と伝統的な技法が融合しており、新しくも味わいの深い造形物となっている。サボテンをモチーフとした作例では、通常はサボっており、人が来ると真面目に立つ、というゆるめのガジェット作品が挙げられる。この作品は顔認識の技術を使いArduino(8)などのマイコン制御によって動作し、部屋に置くことでその場を和ませるというコンセプトで作られている。また、それ以外にもサボテンを育成するゲームやサボテンを叩いた音で構成した音楽など、さまざまなメ図4:サボテンモチーフの作品(筆者撮影)図3:サボテン和紙の照明と団扇・学生との共同制作(筆者撮影)
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