GLOCAL 2025 Vol.25(Special edition)
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2025 Vol.252025 Vol.252025 Vol.2525AIの「主人」として上手に利用して、個人の外国語学習に役立てるサポートをしていくのが、これからの英語教育や英語教員の重要な役割になることは間違いないだろう。そのためには、多様な英語の価値を認識し、「汎用性」を重視する国際英語論的な発想が不可欠であり、今後、生成AIの技術力と相俟って、相乗効果を生み出し、日本の英語教育に多大な影響を与えていくことになるだろう。期待も込めて。参考文献大下浩之(2024)筆者とのメールのやり取り塩澤正他(2016)『国際英語論で変わる日本の英語教育』(共編著)くろしお出版.染谷藤重(2022)「教師の動機づけスタイルがエンゲージメントに及ぼす影響」『中部地区英語教育学会紀要』51,33―40.吉川寛他(2024)「AI時代の英語教育と国際英語論」第63回JACET国際大会口頭発表.サポーターとして使えば、多いに役立つと考えていることは強調しておきたい。そのためにも、自分自身の英語力を高め、「自分の英語」の基盤をしっかり持つことが重要だろう。国際英語論の観点から生成AIは救世主 では、生成AIは国際英語論の観点から言語学習ツールとして何が優れているのだろうか。少し、国際英語論と生成AI利用の英語学習や教育の関係やメリットを考えてみたい。1)「言語使用」の機会の提供 間違いを恐れず、通じることに重点を置く国際英語論的発想は、学習者に「言語使用」の機会を提供する。言語習得に最も重要なのは単語数や文法に関する「知識」ではなく、この「言語使用」の質と量だ。生成AIは場所と時間と相手を選ばず、読む、書く、聴く、話す、やり取りをするという言語活動をいとも簡単に提供してくれる。特に、個人の興味に合わせた教室外での課題や個人学習には大いにその実力を発揮する。暇に任せて興味のある分野で英語で会話をする、文字チャットすることなどAIの得意分野であり、この気軽な言語使用の機会の創出が言語習得を促すことは間違いない。2)不安や緊張からの解放 英語の汎用性(通じること)がもっとも重要だとする国際英語論の発想は、学習者を緊張や不安から解放し、意味中心の言語活動に没頭する心理状態を醸成する。生成AIはそれをさらに後押しする。AIは人間ではない。何度繰り返しを要求しても全く嫌がらない。“Are you really sure? I don’t think you’re giving me enough information.”などと失礼な言い方をしても、何もなかったかのように会話は続く。また、誤りを指摘して欲しいと指示しない限り、AIは簡単にコミュニケーションの流れを止めるようなやりとりをしない。構造的に誤りの多い発話でもそれなりに解釈して返答する。つまり利用者を「ご主人」とするこの生成AIの発想が安心感と解放感を提供する。これは、他人の評価や恥ずかしい想いをすることを極端に嫌う日本人には救世主であろう。3)エンゲージメントを高める 英語教育における「エンゲージメント」とは、学習者が英語学習に「積極的に関与し」、学習プロセスに対して強い興味を感じる状態を指す(染谷, 2022)。エンゲージメントが高いと、学習者は自発的に英語を学び、動機付けも高くなる可能性がある。学習者の興味やニーズに合わせた教材の提供、学習者が自己効力感を持つことも、エンゲージメントを高める一因となる。 生成AIの登場により学習者の興味やニーズに合わせた教材の提供、インタラクティブで参加型の授業の展開、素早いフィードバックの効果的な利用などが容易となった。ただし、そもそも、間違えてもいい、伝わること(汎用性)がもっとも重要だとする国際英語論の発想がない限り、エンゲージメントを高める言語活動に学習者が積極的に取り組めない。ここに生成AI利用の言語活動に、国際英語論の発想が不可欠である理由がある。4)多様性の受け入れ 英語の多様性の尊重は国際英語論でもっとも重要な観点だが、生成AIも基本的には多様な英語を受け入れるという姿勢に立っている。AIプログラムは世界に向けて開発されているので、アメリカ英語でなければ理解できないというようなものは自然淘汰される。必然的に多様な英語を理解する。かなり強い日本語なまりのある英語でも、国際的に理解可能であるとAIが判断すればそれなりに理解し反応する。文化的知識がないと理解が難しい表現、例えば「あいつは狸だ(He is sly like a racoon dog)、Your friend where? (シンガポール英語でWhere is your friend? の意味)のようなものさえも、理解し、翻訳もする。日本語では津軽弁で話しかければ津軽弁で反応することも可能だ。 このように、生成AIの生み出す英語は決して利用者の英語にまで母語話者の英語を強く求めていない。生成AIは国際英語論で英語学習の目標とする「自分らしい英語(My English)」の向上に大いに貢献してくれるといえよう。おわりに 生成AIが発したものを、面倒だから、時間がないから、英語力がもともとないから使っている、、、などの理由でそのまま鵜呑みにていては、AIに振り回されて、いつの間にかとんでもない間違いや剽窃を侵していることになりかねない。AIの「悪魔の誘惑」に駆られずに、資料1. シンプルなAIとのチャット例 以下はAIと筆者がチャットした例である。筆者が音声で、Can we talk about movies?というと、AIが文字で返答した。ChatGPT.0ではすべて音声でチャットすることも可能である。

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